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《一月二十日》
 工藤敦さま
 年賀状ありがとう。返事が遅れてすまない。実は去年の秋からしばらく日本を離れて、ある島にこもっていた。例によって仕事だ。いやあ今回は参った。最初からトラブルの連続で、取引は大失敗。おまけに遭難して餓死の一歩手前まで行った。二十キロもやせたよ。それでも助かったのは、きっと最後の最後にカミサマが少しだけ手加減してくれたんだろう。こいつはまだいじりがいがあるから生かしておこう、なんてな。
 帰りの飛行機の窓から、夕陽を浴びて輝く富士山を見下ろしたとき、無事に帰ってこれたという実感がわいてきて、べたな話だが涙が出そうになったよ。向こうはずっと雨、雨、雨。それもバケツをひっくり返したような土砂降りが何日も続くんだ。救助の連中が異常気象だとか弁解してたけど、異常だろうが正常だろうが知ったことか、おれが往生したことには変わりない。
 そんなこんなで帰国したときには衰弱しきっていたので、年末年始は病院で過ごした。三十年以上生きてきたが初めての経験だ。って大げさだな。工藤の年賀状も病院のベッドの上で読んだよ。宏美が家から持ってきてくれたんだ。
 宏美といえば、あいつにも随分心配をかけてしまった。年中家を空けてばかりのおれに、よく我慢してくれていると思う。もっとも今回はさすがに、「年賀状の代わりに喪中の挨拶のハガキを用意しようかと思った」なんて嫌味を言われてしまったが。
 年賀状といえば、年々世間一般とのつきあいがなくなっている。おれが「仕事」でつきあっているのは、賀状をやりとりするような相手ではないからな。以前はよくおまえたちが遊びにきてくれたが、お互いこう忙しいと、その時間もなかなかとれないな。
 話がそれた。
 退院してそろそろ二週間になる。何とか家の中の用事は足せるようになったが、まだ外出するのは無理のようだ。だから毎日テレビばかり見ている。退屈だよ。
 驚いただろう? 宏美がおまえに出した年賀状では、今言ったような事情には一切触れていなかったはずだからな。おれが口止めしたからだ。悪く思わないでくれ。おまえにはおれが直接説明したかったんだ。
 自分のことばかり書いてしまってすまない。そちらの調子はどうだ? 小説なんてキオスクで見かける程度のおれが、何を言っても説得力ゼロかもしれないが、去年の夏の新作(話が古いか?)は評判がよかったらしいじゃないか。宏美も面白いと言っていた。自分で買ったらしい。昔はサイン本をもらっていたが、あるとき、送ってくれてもどうせ読まないからと、おれの方から断ったと言ったら、失礼なことをするなと怒っていたよ。
 ああ、断っとくけど、こんなことを書いたからって、また本を送ってくれってねだってるわけじゃないからな。念のため。
 体がよくなったらまた連絡する。久しぶりに一緒に飲もう。
 実は土産話がある。今度の仕事で、ちょっとばかり変わった経験をしたんだ。きっとおまえの小説のネタになると思うよ。
 どんな話かって? ここでは言えない。詳しくは、また次のメールでということにしておこう。
 別に焦らしているわけじゃない(いや、ちょっとは焦らしているのかな?)。まだ自分でも整理できていないんだ。
 最後になったが――新年おめでとう。今年もよろしく。

追伸 この質問も毎年のお約束だが――今年は結婚できそうか? いい人がいたら会わせろよ。結婚生活の先輩として(こら反面教師とかいうな)、この月野勇作が責任を持って鑑定してやる。
 言っとくが「月野の目は信用できない」との反論も却下だから、そのつもりで。


《一月二十五日》
 工藤敦さま
 メールをありがとう。まさかパソコン嫌いのおまえから、直筆(というのも変な表現だが)のメールがもらえるとは思わなかった。てっきり電話があるか、それとも直接ひょっこりやってくるかと思っていた。宏美も驚いていたよ。
 白状すると、家に来られたら少しばかり困るところだった。実は喉の方が本調子ではなくて、うまくしゃべれない。それで今も、こんなメールでお茶を濁している。風邪を引いたのか、微熱は続くし、体中のリンパ腺は腫れるし――いや、そんなことよりも、しゃべれないだけで、おれにとっては地獄だ。
 だから頼むから見舞いには来ないでくれよ。おまえの話を一方的に聞かされて、こっちは相槌も打てないなんて、想像しただけでもぞっとする。なに、しばらくおとなしく寝ていれば治るだろう。
 いろいろ書きたいことはあるけれど、詳しくは、また次のメールで。


《二月一日》
 お見舞いの品をどうも。そう気を使ってくれるなと書いたつもりだったが、やっぱりもらえば嬉しい。
 でも――その中身が、クナギ酒のボトルとウサギのジャーキーの詰め合わせっていうのは、何かの冗談か? 相変わらず妙な物ばかり集めているようだな。
 喉が悪いって言っただろう。あんな強い、喉にひっかかるような味の酒が飲めるわけがないじゃないか。
 宏美の話では(ネットで調べたらしい)、クナギ酒はナントカ族に伝わる秘薬で滋養強壮に効果を発揮するし、ウサギのジャーキーは、その代表的なつまみらしいが、酒の方はむせてしまって飲み込めなかったし、ウサギは――昔ならともかく、今はちょっと理由があって口にする気になれない。
 まあ、とにかく気持だけはいただいておく。ありがとう。
 ところで、この前、三田が久しぶりに訪ねてきた。なんでも姪の就職相談だということだ。将来は独立して個人輸入をやりたいらしく、それでコネのありそうなおれのところへやってきたわけだが、今時の大学生にしては随分しっかりした子のようだな。おれがこんな状態なので(あの神経の太い三田が、おれの姿を見て絶句したのには参った)、まだ彼女とは会っていないが、三田の話を聞いただけでも、その辺は充分窺えた。あいつとも腐れ縁だからな。なんとか力になってやりたいと思う。
 ところで、三田の姉さんのことを覚えているか? 中学生のとき、おれたちはみんな彼女のファンだったじゃないか(宏美には言うなよ)。
 実は三田の姪というのは、彼女の娘のことなんだ。どんな子か興味がわかないか?
 続報は、また次のメールで。
 
追伸 サイン本をありがとう。特に宏美が喜んでいた。おれは――わかってる。テレビばかり見ている暇があるなら本の一つも読んで勉強しろというんだろう。宏美にも同じ説教をされた。でも、気力がないと、活字を追うのが一層億劫になるんだ。
 

《二月二十日》
 おまえまで体調を崩しているとは知らなかった。大丈夫か。
 おれの方は、あれからまた病院に通ったりして治療に専念した甲斐があって、何とか持ち直してきた。春までには全快しそうだ。
 この前の三田の姪の話、あれはおまえに興味を持たせようと持ち出したんだ。まあ一種の見合いだな。発案者は三田だが、おれも乗り気になって、あんな思わせぶりなことを書いて協力したつもりだった。
 ところが、おまえは全然食いつかず、それどころか、あれっきり返信メールすらよこさないから、てっきり作戦を見破られて逃げられたものとがっかりしていたんだ。昔から工藤はそういうところがあったな。おれが勧めるものは頑としてはねつけて、その代わり妙な方面にちょっかいを出してくる。
 でも、実際おまえはそれどころじゃなかったわけで、ほっとした――冗談だよ。怒るな。
 まあ今となってはどうでもいい話だ。今は自分の体のことを第一に考えてくれ。「ちょうどダイエットしたかったところだからちょうど良い」なんて冗談言ってる場合じゃないぞ。昔からおまえは季節の変わる度に寝込むたちだった(毛布から赤い鼻先だけ出してモスラの幼虫みたいになっているのが目に見えるようだ)が、もう若くはないんだから、少しは用心しないと。
 それにしても微熱に喉頭炎にできものといったら、おれと症状が似ているが、やはり新種の風邪でも流行っているのかな。
 早速見舞いを送るよ――クナギ酒とウサギのジャーキーを。
 実は、ちょっと相談したいことができたが、今はやめておく、詳しくは、また次のメールで。
 

《三月八日》
 調子はどうだ。
 おかげさまで、こちらはすっかり回復した。昔のように、徹夜でおまえと議論したって大丈夫だ。
 ところで、前に言いかけた相談の件だが――かなりやばい展開になっている。もしかして、おまえはそれどころではない状態なのかもしれないが、どうしても聞いてほしい。おまえしか話せる相手がいないんだ。本当に切羽詰っている。
 実は、おれの病気は、普通のものではなかったんだ。どうやら向こうにいる間に厄介なウィルスに感染していたらしい。
 入院中の検査に引っ掛からなかったのは、まだそれが一般には知られていない新種のウィルスだからだ。少なくとも日本では、一部の研究者にしか、その存在を知られていない。おれの場合は専門家に診てもらえたから助かった。
 「専門家」といえば、おまえならピンとくるかもしれないな。お察しの通り、おれが診てもらった医者というのは三田のことだ。あいつのいる英大の研究室には世界中から最先端の情報とノウハウが集まっている。
 おれが感染したウィルスは、体内の免疫機構を破壊して患者の抵抗力を奪い、最終的には死に至らしめる――というと、エイズウィルスを連想させるが、三田の説明もずばりそれだ。いわく、「エイズより潜伏期間が短く劇症性だが、ワクチンで治療可能なのが救い」だそうだ。国内ではおれが第一号の患者だと、三田のやつ喜んでいたよ。毎度のことながら、あのセンスにはついていけない。
 一般に知られていないのに既にワクチンが用意されているところが妙だと思わないか? おれも不思議に思って三田に尋ねると、案の定バイオテロ用に人工的に開発されたものだという。キャリアと性交したり、キャリアの肉を食べたりすると伝染するそうで、人間だけでなく動物もキャリアになりえるというから物騒だ。
 実は、思い当たる節がないこともない。例の惨憺たる結末に終わった取引の一件だ。そう言えばこの話も、今度すると言ったきりそのままになっているな。ここでも詳細は略すが、何度か危ない橋を渡ったのは事実だ。普通の病院ではなく、三田のところへ直行したのは、もしやという勘が働いたからでもある。
 幸い発見が早かったので、数回通ってワクチンの連続投与を受けただけで完治した。発症後一ヶ月を越えるとワクチンも効かなくなるというから、危ないところだった。
 というわけで、おれの方はとりあえず一安心だが、もう一つ厄介な問題が残っている。
 宏美のことだ。
 ここまでいえば、話の展開は読めたと思うが、宏美も百パーセントに近い確率で感染している。夫婦だから当然だ。ただ女性の場合は、ホルモンバランスの関係でなかなか発症しないらしい(ちなみにウィルスの名前はクレオパトラというそうだ。関わった男を次々に倒していくからだというが、悪趣味なネーミングだな)が、手を打つのが早いに越したことはない。
 三田のところへ連れて行けばいいのだが、問題はどうやって宏美に説明するかだ。
 身内の恥を明かすのは辛いが、あいつはかなり嫉妬深い。最近はそうでもないが、結婚当初は、おれが「仕事」でしばしば家を空ける度、あいつの目を盗んで浮気しているのではと、痛くもない腹をさぐられたものだ。今度のことだって、下手な言い方をしたら、女がらみだと決めつけられるのは、目に見えている。
 いや、本当におれは潔白なんだ。おれが感染したのは、海外で、キャリアとなった動物の肉を食ったからだと思う。でも、そんなこと全然知らなかった。まさか相手を食う前に「おまえは病気か」と聞くわけにもいかないじゃないか。
 馬鹿なことを話していると思うか? おれは至って真面目なのだが――詳しく話せば長くなるし、中途半端な説明では到底信じてもらえないだろうから詳細は省くが、ここはおれの言葉を信用してほしい。
 で、おまえに相談だが、どういう説明をすれば、宏美にあらぬ疑いをかけられずに済むだろうか。
 実は三田にも話してみたのだが、
「悪の組織につかまって拷問されたとでも言えばいいじゃないか。秘密を吐かないと命はないとウィルスを注射されたとか何とか」
 などと面白がるばかり。あいつの調子はずれなユーモアのセンスはおまえも知っての通りだ。こういうときにはまるで助けにならない。
 言葉を操るのはおまえの専門だろう。なんてったって小説家なんだから。友達と思って知恵を貸してくれ。
 宏美が発症した様子はないし、当面これ以上患者が増える心配がないのが不幸中の幸いだが(あいつの肉なんて誰も食わないだろう)、このままにしておくわけにはいかないのはいうまでもない。
 よろしく頼む。この通りだ。
 必要なら、三田に詳細を確認してくれても構わない。電話番号は×××○×××だ。
 それから、十日ほど後には宏美が郷里の同窓会にでかけて家を空けるから、そのときなら直接会っても構わない。
 とりあえず連絡を待っている。メールでも電話でも構わない。


《三月十九日》
 今日、工藤が自殺したというニュースを見た。遺書には「病気を苦にして」とあったという。
 ココアに毒を入れるとは、なかなかあいつらしい死に方だ。せめて最後に一番の好物を口にしたかったということか。毒の名前は聞いたこともないものだったが、世界中から怪しげな品物を集めていた工藤なら、さもありなんと思わせる。
 しかし、よりによって自殺とは。正直言って驚いた。そんな重病だったなんて、少しも知らなかった。もう一年近く会っていないが、連絡は取り合っていたし、悩んでいるそぶりなど少しも見せなかったからだ。
 宏美、おまえもさぞ驚いただろう――と書こうと思ったが、気が変わった。
 芝居はやめよう。
 おまえが驚いたはずはない。工藤の病気のことを、おまえは知っていたはずだ。なぜなら、工藤に病気をうつしたのは、おまえだからだ。
 おれがおまえにうつし、おまえが工藤にうつした。
 そう信じていたはずだ。おまえも、工藤も。
 工藤になじられたか? おれとはもう他人同然だといっていたくせに、あれは嘘だったのかと詰問されたか? おまえがどのように弁解したのか、聞きたい気もする。あれは家庭内レイプだったとでも言ったのだろうか。
 おれが疑いはじめたのは、あのときおまえに拒まれたからではない。もっと早くから、おまえと工藤の間に何かがあるような気がしていた。それこそ、おれがこの前日本を出る前から。
 あれほど嫉妬深かったおまえが、いつかおれのことを一向に気にかけなくなった。それと並行して、おれの友人のことを話題にしなくなった。避けているというのとは違う。うまく言えないが、常におれというクッションを間におくようになり、自発的に接触することは一切なくなった。なくなったように見えた。それがかえって不自然に思えたんだ。
 疑いが確信に変わったのは、帰国してから、正確には退院してからだ。あんなにメカ音痴でパソコンを苦手にしていた工藤が、なんとおれにメールをよこした。いつも大抵の用事を電話で済ますというのに。理由は一つしか考えられなかった。工藤は、おれが声を出せず、電話でしゃべれないことを知っていた。そんなことを誰から聞いたのか。おまえが教えたとしか考えられない。
 それなのに、おまえはそれを否定した。工藤とは特に連絡を取り合っていない。年賀状をやりとりしたきりだと強調した。やましいところがなければ、何も隠す必要などないはずなのに。
 妄想だと笑うか? 病気のせいで頭までおかしくなっていると、わらいとばすか?
 それを確かめるために、おれは工藤に罠をしかけた。あいつが例によって体調を崩していることを知ったので、それを利用することにした。専門的なことは三田に協力してもらった。
 こう書けば、おまえも察しがつくだろう。
 あのクレオパトラ・ウィルスのことは、全部でたらめだ。確かに今回の仕事で、おれは随分ひどい目にあったが、あんな物騒な病気にはならずに済んだ。
 ただ、工藤はそれを本当だと信じた。そうした物語を頭から否定するやつもいるが、工藤はそうではない。どちらかといえば、トンデモめいた話に惹かれるたちだ。自覚症状もあったし、感染する心当たりもあったのだから、素直に信じたのも無理はない。
 三田から聞いたよ。一週間前に工藤から電話があったそうだ。どうも体の具合がよくないから診てくれと。実際に診察を受ける前に死んでしまったわけだが、クレオパトラのことを心配しているのは明らかだったそうだ。そうでなくて、どうしてわざわざ臨床医でもない三田のところに行くものか。
 工藤は、自分がクレオパトラに感染していると思いこんでいた。
 おれにとって、それが決定的な証拠になった。工藤がそう思いこんだのは、おまえとできていたからだ。それ以外に感染する可能性はない。
 工藤の場合、「症状」が出てから、既に一ヶ月以上経過している。おれの言葉を信用するなら、もう治療は難しいことになる。三田も同じことを言ったそうだ。あいつが絶望するのも無理はない。診察を受けずじまいだったのも、はっきり宣告されるのが怖かったととれないこともない。
 だから、工藤が自殺したとすれば、その責任は、あいつを騙したおれにあるとも言える。潔く警察に出頭して、全てを打ち明けるべきかもしれない。
 おまえはどう思う? おれは罪を償うべきだろうか。
 おまえが同窓会で留守にしている隙に、このメールを書き始めてからずっと、そのことを考え続けていた。そして今、一つの結論に達した。
 警察へは行かない。絶対に。
 裁判や刑務所が怖いから? 違う。
 おれはどうしても信じられないんだ。工藤が自殺したなんて。
 おまえの知らない話をしよう。
 実は、三田から連絡があってすぐ、おれは工藤に手紙を出した。行き違いにならないように書留にして。
 ついさっき、郵便局から配達通知が届いたよ。
 その手紙の中で、おれは工藤に対して事件の真相を説明しておいた。真相とはつまり、今までこのメールに書いてきたこと全てだ。そして、これからどうするべきか、よく考えるように言ってやった。
 手紙が無事届いた以上、それを工藤が読んだことは間違いない。読まずに放っておけたはずがない。とするとどうなるか。
 工藤は、自分が病気でないことを知っていた。だから、病気を苦にして自殺などするはずがない。百歩譲って、あいつがおまえとの関係を清算するために自殺したとしても――そんな殊勝な男とは思えないが――病気のことを遺書に書くわけがない。
 あの遺書はニセモノだ。
 どう細工したか、方法まではわからないが、誰が偽の遺書を用意したかは推理できる。あの病気のことを知っているのは、おれと工藤と三田とおまえの四人。そのうち、病気が本物だと信じていたのは、宏美、おまえだけだ。
 おまえが工藤を、自殺に見せかけて殺したのだ。おれは、そう確信している。 
 おれのメールを読んでクレオパトラ・ウィルスのことを知ったとき、工藤はおまえに相談したのだろう。それが元で別れ話にでもなったのか? だとしたら、やはりおれは間接的にせよ、工藤の死に責任があることになる。
 それとも、おまえはとっくに別れるつもりで、この機会を利用しただけなのか? おれにはわからない。
 工藤は真相を知ってからも、おまえには黙っていたようだ。その理由もわからない。あいつなりになにか企んでいたのかも知れないな。手遅れだったようだが。
 昨日から同窓会と称して出かけているおまえの本当の行き先もわからない。
 一番わからないのは、おまえがこれからどうするつもりかということだ。
 工藤とのことをおれに告白し、全てを詫びるつもりなのか。一切しらを切りとおすつもりなのか。それとも何かうまい言い訳を用意しているのか。
 このメールをおまえに送るかどうかは、おまえの出方を見て決めようと思う。
 できれば、出さずに破棄することになれば良いとは思うのだが。
 そして、もしおまえがこのメールを読むことになっても――これからおれたちがどうするべきかについては、まだ、ここには書かない。
 実は自分でも、一体どんな展開を望んでいるのか、よくわからないのだ。
 ここは、おれのいつもの決まり文句を使わせてくれ。
 詳しくは、また次のメールで。


Copyright(c): Uetaka Aoi 著作:蒼井 上鷹

◆「詳しくは、また次のメールで」の感想

*蒼井さんの作品集が 文華別館 に収録されています。

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