社内結婚なんですって?
エリートなんですって?
羨ましがられたでしょう?
女の花道ですもんね。
結婚式はどうしたの?
新婚旅行は?
ふ〜ん、そうよね、あれだけの会社ですもの、まあ、相場ってもんがあるわよね。付き合いも大変よね。
家はどこなの?
ああ、あの辺のマンション、いいわよね。贅沢すぎず、みじめでもなく。スタートにはほどほど感が大事ですものね。
それで? 何年付き合ってたの? 一年?
え? 声をかけられるまでが、さらに半年ですって? それは長かったわねえ……。
努力したって、あなたの方が?
それじゃなに、あなたのほうが先にご執心だったってわけ? ああ、狙ってたってこと。ライバルも多かったんでしょうね。よく勝ち取ったわ。
でもそれ、まさかダンナに気づかれてないでしょうね?
ダメダメ、絶対ダメよ。
今後、何かの拍子に、
「いつからオレのこと、好きだったんだよ」
なんて聞かれたら、まず先に、
「あなたは?」
って聞くのよ。それで、相手がその長さとか、きっかけを言ったら、絶対それより前から好きだったなんて言っちゃダメ。
「ええ? その時、まだぜんぜん気づいてなかった」
とかなんとかいって、ごまかしときなさい。
もしかして、もう言ってしまったかもしれないですって? それは問題だわ。そういう時はね、ちょっと時間を置いて、さりげなく、
「いつ頃から、あたしに声かけようって思ってたの」
って聞いてごらんなさい。いいのよ、また同じこと聞いたって。とぼけるの。どうせ男は手に入れた女の言うことなんて、半分も聞いちゃいないんだから、同じこと言ったって、気がつかないわよ。よく聞いていてごらんなさい。
似たような話題になった時、好きになったきっかけとか、その時期とか、だんだん遅くなってくるわ。
そう、前、聞いたときは、もっと早かったような気がする、ってことになるの。相手のほうが先に自分を好きになったって、思っていたいのよ。そうやって、少しずつ修正しておくのよ。
それからね、社内でライバルが多かったことも、秘密よ。そうね、できれば30年は黙っていなさい。ダンナ相手にそんなことを自慢するもんじゃないわ。
もし仮に、他人の口からその手の話をダンナが聞いていたとしても、あなたは知らなかった顔を通
すのよ。あなたのダンナって、
「オレってモテてた」
って話、好きなタイプなの? ボクトツタイプ? なるほど、その路線できてるわけね。それなら自分からそんな話、言い出さないでしょうけど、男ってつけあがると止まらない場合があるからね。
他にも選択肢があったのに、結婚してやった、なんて、間違っても言わせちゃダメよ。そんなふうなことを、言ったら、聞こえなかったふりをしなさい。
まあ女にもそういうところはあるわ。でも、だからって、男の言い分、信じてあげることはないんじゃない? 調子を合わせてると、図に乗るわよ。
ところで、女の花道ってことは、退職したわけ? 仕事、辞めたのね。
う〜ん、そうね、同じ職場には居づらいわよね。
それでどうするの? これから、職を探すのね。なるほど、子会社にバイトでね。いいじゃない。いいわよ、働けるうちは働いたほうが。ほら、例の、
「オレが食わせてやっている」
だの、
「誰の稼ぎで――」
なんていう定番のセリフ、当分の間、聞かずにすむわ。それにね、自分のお金はやっぱりあったほうがいいのよ。そうそう、バイトやパートっていうのは、正解だったわ。
だってそうでしょ? うっかり正社員とかになって、バリバリ働いてごらんなさい。そのうち、財布は別
、なんて言い出すわよ。わかるものですか。
ダメダメ、そのほうが楽だなんて、思っちゃダメよ。自分が自分の稼ぎで自由ができるってことは、相手も自分の稼ぎで自由ができるってことなの。どんどん当てにされるわよ、あんたの給料。
そのうち、
「家賃払っておいてよ」
って言い出したり、外食したとき、
「ごちそうさま」
なんていって、さっさと席を立たれちゃうわ。甘えだしたらきりがないんだから。最近の男は特にね。一回でも許したら、それが日常になっていくの。
だからね、バイトってのはちょうどいいのよ。だいたい、ダンナには正確な稼ぎを知らせなくてもいいじゃない。
「バイトなんだから大したことないわ」
って言っとけばいいのよ。明細なんか死んでも見せちゃだめ。ああ、最初のころの、時給が低いうちにちょっと見せておくのも手かもね。
「いくらもらってんの?」
って聞かれても、
「恥ずかしいもん」
って答えておきなさい。
大丈夫よ、家賃とか、光熱費とか、家計のメインになるものは、ダンナの通
帳から引き落としにするの。食費やダンナの服なんかは、生活費をもらいなさい。
そうなると、やっぱり自分自身の貯金も必要だから、バイト代は、ホントにお小遣い程度だと思わせなきゃ。
そのうち、残業1時間増やすとか、がんばって時給が上がっても、舞い上がって報告したりしないこと。自分の欲しいものの話なんか、しだすかもしれないわ。もし言い出しても、絶対、
「買ってくれ」
と正面から言われない限り、プレゼントなんて金輪際しちゃだめよ。根気よく聞き流していれば、そのうち諦めるわ。まあ、正面
きって言われても、冗談として受け流すのね。
あら、自分へのプレゼントは、忘れられちゃ困るじゃないの。聞き流されても聞き流されても、きちんと言い続けるの。で、テレビを見ているときとかに、生返事でもいいから、言質をとっておくのよ。そうすれば、いずれ欲しいものは手に入るわ。誕生日とか、クリスマスとかを利用しなさい。
そう、そういう時はね、最初にとても高価なものをねだるの。するとダメだって言われるわ、そうしたら、さりげなく、ランクを下げていくのよ。そう、もちろん、ランクを下げてねだったそれが、ホントに欲しいものだったって作戦でね。
どう? 遠慮深く見えるでしょ? あら、高いほうでOKが出たら、それはそれでラッキーじゃないの。
バイト代で自分の物を買いたい? それは当然よ。いいんじゃないの? いえ、当たり前というべきだわ。安いバイト代から自分のものを買うのを制限するような男なら、早々に見切りをつけるべきね。
でもね、コツがあるわ。絶対、目立つようなものを買っちゃだめよ。もしうっかり、ブランドものを買ってしまっても、可能な限りそらとぼけること。全部、結婚前に、ボーナスで買ったもの、そう自分を暗示にかけておきなさい。
例えば化粧品なら、メイク用なんかより、基礎化粧品にお金をかけるといいわ。
何言ってんの。エステで肌が十年若返るっていうのはね、ウソじゃないのよ。もちろんいきなり十歳若くなるわけじゃないわよ。今、お金や手間をかけていれば、若い肌がキープされて、十年後には、なんにもしなかった人と十年の差ができてるって寸法よ。
あなたも、若くありたいでしょ? 結婚したって、いくら好きな人とゴールインしたって、女は女よ。きれいでいたほうが自分も嬉しいし、ダンナだって喜ぶわよ。
え? ダンナにもいつまでもかっこよくいてほしいですって? ダンナをかっこよく見せるのも妻の務めですって? ああ、なんというたわごとを……。
いいこと? あなたはダンナと付き合って差し上げて、結婚して差し上げたのよ? そのことを忘れちゃダメなの。絶対の原則よ。その関係を維持するためには、美しく、高根の花でいなくちゃいけないのは、あなたの方だけ。間違ってもダンナがダンディである必要はないのよ。
それじゃ友達が羨ましがらないですって? 何言ってるんだか。いいのよ、ハゲ、デブ、チビの三拍子でも、エリートなんでしょ? そのうち誰より先に一戸建てでも買えば、一発大逆転になるのよ。見てくれなんて、問題外なの。そんな見栄はね、お金で買えるんだから。
だいいちかっこいいダンナにして、浮気でもされたらどうすんの? その上、
「女房はオレにベタぼれ」
なんてインプットされていたら、どんな恐ろしいことになるか――。
でもやっぱり、できれば給料は全額、女房が管理して、ダンナに小遣いをあげるっていうのが一番よね。その金額がまた難題ね。少なすぎると、絶対に、
「会社の同僚にさりげなく聞いたんだけどさ、みんなだいたいこれくらいで──」
とか、そんなような話を持ちかけるでしょう。もちろんそんなことは、作り話で、言いたいことは単にお金が足りないってこと。本気で聞いて、悩む必要はないわ。
でもね、同僚とのバランスもあるだろうし、極端にみじめな気分にさせると、外でグチられる場合もあるからね、そのへんは留意して、昇給させてあげるのもいいわ。そういうときは、ありがたがらせるように工夫してね。断じて当然だなんて思わせないように。
お酒は呑む方? ああ、つきあいが多そうだものね。でもね、飲み会が接待だったのか、自腹だったのかは、うるさくない程度にきちんと探るべきよ。男って接待っていう言葉を、そりゃあ巧く使うんだから。騙されないようにね。まあ、自分が遊びたいときもあるでしょうから、時には騙されてやるのも必要かもね。
たばこは吸うの? 小遣いの問題で、そこが重要よ。
「健康のことが心配だ」
って連呼して、禁煙させることよ。あなただって、肺を悪くするかもしれないんだから、ちゃんと言わなきゃ。ベランダを喫煙コーナーにして、厚くても寒くても、隔離するのも手だわね。家に置く灰皿は小さくてかわいいやつにするの。そして汚すのをためらうくらいに、いつもきれいにしておくことよ。嫌みなくらいにね。時には、キッチンでかるい、咳ををしてみるのもいいわ。
お小遣い制度にするにはきっかけが必要ね。それには、家を買うとか、子供を作るとか、大きなプランがあるといいのよ。それに向かって、二人で頑張ってるってポーズで、節約の理由になるでしょ? 文句を言ったら、
「協力的じゃない」
ってやりかえせるわ。
でも、自分自身のことでケチケチするのはいやよね。
そうよ、そのためにはまず、余分なお金は持たせないこと。
でもね、会社がいいとこだから、あんまりケチケチちないこと、そこんとこが難しいわね。家計簿は二重帳簿にするのよ。そしてウソのほうを見せて、家計はギリギリだってことにするの。貧乏って意味じゃないわ。
二重家計簿なんてめんどくさい? そう、それなら、大きくて高いテレビとか冷蔵庫とか、定期的に高価な買い物をするのも手ね。いいのよ、そういうのは二人で使うものだもの。
車はダメよ。もし持っても、車の経費はあなたが払うようにしなさい。間違ってもその代金をダンナの言うなりに渡しちゃだめよ。
それからお弁当を持たせるのも、浮気防止になるわね。だいたいね、カラの弁当箱がカバンの底に入ってる男と、飲みに行ったり、ホテルに行ったりする女がいるもんですか。弁当っていうのは、鎖みたいなものよ。
ダンナをうれしがらせるためにあるんじゃないの。あなたの評価をアップさせるためにあるのよ。ケナゲで料理上手って見られるでしょ?
凝った弁当を持たせるのもいいわね。あら、中身のことじゃないわ。ジャー式とか、二段式とか、箱のほうよ、凝るのは。面
倒くさいなんていってちゃいけないわ。重要なことなんだから。
そうそう、言い忘れたけど、時々は、弁当なしの日をつくるといいわ。なに言ってんの、手抜きじゃないのよ──結果
的には手を抜けるけど──ダンナに、たまには外でランチって日をつくってやってるんじゃないの。カンペキな女房ってのをテレる男もいるからね。照れるっていうより、後ろめたいのかもしれないわ。
「明日、お弁当パスしていい?」
なんてあなたが聞くと、
「ああ、いいよ、いいよ」
って寛大な男を演じたいものなのよ。
弁当だけじゃなく、食事の支度っていうのはね、よほど料理が趣味で上手でもなけりゃ、家事のなかで一番やっかいよね。コンビニ弁当とまではいわなくても、出来合の総菜をいやがる子供な男って多いからね。
でも、考えても見て? 食卓を牛耳れるってことは、ダンナの生殺与奪を握るのと同じなのよ。太らせるものスリムにするのもあなた次第。いまどきは、研究さえすれば、ハゲにするのも、肌ピカピカつるつるにするのもあなた次第。その他、疲れを取るとか、癒すとか、そういうのって食事に重点が置かれるでしょ?
それにね、毎朝目玉焼きをして、食事を全体的に少し濃いめにしていれば、自分より早く逝かせることだって可能。つまり、寿命だってあなた次第なのよ。味付けなんて、毎日ほんのちょっとづつ変えれば気がつかないものよ。味付けが犯罪になった話なんて、聞いたことないしね。ダンナが気に入らなくなったら、メニューを一工夫よ。
成人病てんこ盛りみたいな男や、病的にやせている男は、女も近寄らないわ。浮気防止になるわよ。
ステキじゃない?
主婦には、こんなにすばらしい権限が与えられてるってわけよ。
まあ、問題なのは、若いうちに寝たきりなった場合ね。ほどほどに仕事を続けさせるようにしなくちゃ。
ところで、保険にはちゃんと入ってる? 早めに話し合っておくことよ。若い男って、自分に果
てしなく寿命があると思ってたり、限りなく健康だなんて思ってたりするものよ。
入院保障がついて、死亡時の受取金がいいやつ、あとで資料送るわ。よく見てね。自分がもらうとなれば、しっかり見るものだから、心配はしないけど。
こういうのも、ポイント高いわよ。あんまり保険、保険っていうと、殺す気か、って思われそうだけど、常識範囲の適度なら、しっかり奥さんの印象になるでしょ? まあ、お互いに入って、お互いを受取人にすれば、妙なことは疑われないけどね。
それからね、下着も大事ね。え? 冗談じゃないわ。良い物を使うのはあなたの方よ。ダンナのはね、安くてもいいのよ。最近は百円ショップでも、男性用下着、売ってるじゃない。あれで上等、上等。わかりゃあ、しないわよ。清潔であればいいのよ、下着なんて。
不潔なのとボロいのはダメよ。今時は何があるかわからないでしょ。大地震とか、事故とかテロとか、外で思いもかけない事件に巻き込まれることがあるかもしれないし。そうなったら、会社や街中で救急車で運ばれることになっちゃうでしょ? そういう事態じゃ、下着、替えられないわよ。は? そうなったら下着のことなんかかまっちゃいられないですって? ところがね、あなた、他人てのは意外と見てないようで見てるのよ。
「ああ、この人、奥さんいるのにこんな下着──」
って、会社の人とか、看護師に思われるのって、嫌じゃない? たとえあとでなんにも言われなくても、よ。そのあと、見舞いの時とか、お見舞い返しの時とか、最悪葬式の時とか、思い出してるわよ、その人、
「あ、あのボロいパンツの人」
ってね。
あら、いいところに気づいたじゃない。そうよ、これも浮気防止にも効果ありね。勝負パンツなんか、断じて用意させちゃダメよ。どうなの? もともとそういうところ、オシャレな男なの?
よく見てなかったってあんた、随分のんきね。すぐにでもタンスと押し入れ、チェックしなさい。どんな下着をそろえてるか、シャツもネクタイもよ。メモをとってもいいわ。
もしも、見たことがないコレクションが増えていたり、減ってたりしたらイエローカードなんだから。結婚した男が、自分で服なんか買ったりするもんですか。でも、毎日チェックしても、毎日、口うるさく、
「これどうしたの?」
なんて聞かないことよ。うるさい女、って思われるからね。
最初はね、
「なんだ、そんなの、前からあるじゃないか、気がつかなかったのか?」
なんて言うでしょう。そうしたらね、変だと思っても、
「そうだった?」
ってとぼけて、ちょっとボケて見せるのがベストよ。でも、ちゃんと、それがどの服か、どんな柄のネクタイのことだったか、きっちり覚えておくの。次は、同じ言い訳が通
らないようにね。
ダメよ、気を抜いちゃ。結婚したからって、安心したら、すぐにダンナはそれをかぎつけるんだから。そこんとこは鋭いのよ。
離婚する人なんかまわりにいなくてもね、みんな面倒くさいだけなのよ。
浮気はね、どんな男にあっても不思議じゃないの。安全圏なんてないものと思いなさい。
え? お小遣いでチェックして、百円パンツじゃ、浮気できないって、そりゃあなた、油断しまくりよ。風俗なんて問題じゃないわ。水商売系もね、逆に心配ないくらいよ。だって、
「本気じゃない」
っていうセリフが、男も、女房も、いえるでしょ? 簡単になかったことにできるんだから。病気の問題だって、ちゃんとした風俗のほうが気をつけててくれるっていうじゃない。病気流行ると、大問題だしね。怪しげなところはどうか知らないけどね。
は? 生理的嫌悪? それは仕方ないけどね。我慢しろとはいえないわ。行為そのものより、そういうところへ行く男の姿、想像するとたまんないものね。こういうときは、女房は爆発してもいいわ。周りの理解も得やすいからね。解決は早そうだしね、そのほうが。
でも、ダンナの母親には要注意よ。あんまりグチると、
「あんたにも問題があるんじゃないの?」
なんて古典的なセリフが聞けてしまうから。
問題はね、社内の女とか、仕事先で知り合った女との不倫よ。ライバルが多かったんでしょ? 結婚前。じゃあ、なおさら注意しなきゃ。あなたに取られたって、逆恨みしている女もいるかもしれないわ。
これまでに二股ってなかったの?
それでもね、あんまりあなたが惚れてるって態度でいると、安心しないで、他の女で試してみようなんて、ろくでもないことを考える奴もいるのよ。
でもだからって、ケイタイをこっそりチェックしたり、スーツのポケットを探ったり、財布を覗いたりはしないほうがいいわ。
もし調べたことがバレたら、
「勝手に調べるような女なのか」
だの、
「信じてないのか」
って逆ギレされるわ。
そんなことになったら、かえって逆効果。じゃあ、オレだって信じないなんて、開き直って、それこそなにをするか分からないわ。
証拠を残すようなら、かえって簡単というものよ。それでなにか怪しいことがあっても、よほど間抜けで失敗してるか、あなたの反応を見てるって、その程度だから。
じゃあ、どうするかって、そんなの、よく見ていればわかるわ。よほどバカな女じゃなきゃ、わかるものよ。
興信所なんかダメよ。弱みにつけ込んで、高いお金を取られるし、証拠があがってもなくても、調べると費用を請求されるのよ。最近はサギだってあるの。離婚させてやるから、礼金よこせってね。ダンナがいいところに勤めていたりしたら、狙われるわ。
それより、日常に情報があるのよ。弁当持参を、ダンナから断る回数が増えているか、こまめににシャツを替えているか。そうそう、タンスチェックは堂々とできるわね。ネクタイはやばいけど、ハンドタオルとかハンカチとか、小さなプレゼントならバレないと思って、貰ってる場合があるから。自分で買ったっていうのも、言いやすいでしょ。
最近はね、不倫する女にも、いろいろバージョンがあるのよ。離婚させて、自分が女房に収まりたいタイプ。一番やっかいそうだけど、案外、今はこれが少ないかもね。
不倫でもお互い、勘違いしあってる時期には、そんなたわごとを言うこともあるかもしれないけど。あるいはよほどのバカね。本気なもんですか。不倫する男は、誰と結婚しても不倫する、くらいのこと、誰でも知ってるわ。男がすごく面
倒くさがりで、離婚は面倒だと思ってることもね。
さっきも出たけど、かつてのライバルが、嫌みで仕掛ける不倫もありね。これは別
れさせるのは簡単かもしれないけど、男が、あなたと結婚したのは間違いだったって思いこまされる場合があるの。
相手の女が、あれこれ言うのよ。そもそも、ぶち壊す目的なんだから、あることないこと言うわ。
「彼女ってこういうとこあるよね」
から始まって、金遣いが荒いとか、酒癖悪いとか、男関係が派手とか。いついつ誰それのところに泊まったなんて、嘘でも平気で言うわよ。そこが問題。そういう刷り込みって、一生削除できないもんなのよ。
一番大変なのは、女でもちゃんと仕事して、そこそこ収入もあるタイプが、ちょっとしたはずみでつきあったって場合。そういう女は、たいてい自分の部屋を持ってるし、へたすりゃ男の自分の家よりいいマンションだったりして、ホテル代も必要ないでしょう。収入があれば、お金をほしがることもない。二人のデート代だって、女が出す場合もあるわ。仕事をバリバリしてれば、性急に結婚しようとも言わないでしょう。
不倫だって自覚もないかもしれないわ。面倒になればすぐにでもポイ、だろうけど、男と気が合って、話も合って、時々逢えればいい、って関係、バレなきゃいつまでも続くわよ。男だって楽だもの。
ほら? 嫌な女でしょう? やっかいよね。
じゃあ、どうすりゃいいかって?
男の出方次第ってとこもあるけどね、本当のところはあなた次第よ。この問題もね、生殺与奪はあなたが握ってるの。不倫はバレたら家の中は暴風雨が吹き荒れるし、親に知れたら親族戦争勃発するし、仕事だってダメになるかもしれない。
それにね、最近は裁判にするケースも多いのよ。不倫は決定的よ。勝訴する確立、高いわ。
ただ、有名人みたいな慰謝料は期待しちゃだめよ。相場はよくても300万くらい。でも、近い将来、年金を半分もらう法律もできるしね。最終的には男がソンするわ。
300万じゃ一年くらいしか生活できないですって?
裁判は面倒くさいですって?
そう言う場合は、仕方ないわね。
プライドとは引き替えよ。
黙って、女房の座に居座り続けなさい。最低の権利だけを守ってね。
注意すべきは、不倫相手と、長期間の同棲を認めないこと。10年もほっとくと、相手にも権利が生じてしまうわ。やばくなったら面
倒でも裁判にするか、親族に報告しまくって、周りになんとかしてもらいなさい。
そこで巧く、あなたが有利な立場になるには、「かわいくて良くできた嫁」に見えるような努力が、普段から必要だけど。じゃないと、逆にあなたが攻められることになるわ。
子供ですって?
子はかすがいですって?
そんなこと、まさか本気で信じてるんじゃないでしょうね?
あら? 知らなかったの? 自分だけのお母さんが欲しくて、結婚する男って、けっこう多いのよ。
基本的には、女房には自分の世話を中心にやっててほしいに決まってるじゃないの。
「仕事に出るのはいいけど、家事をおろそかにしないように」
なんて滅茶苦茶言う男だって少なくないのよ。あら、自分の稼ぎには関係ないの。男のプライドってこともあるけど、だいたいはね、家に帰ってきたときに、お母さんが留守なのが嫌なのよ。
だから、女房が、外出するのも嫌がるの。夕方には帰ってきて、おやつ……じゃなかった夕飯を用意しててほしいわけ。
結婚前、一人暮らししていて、どんなにその部屋がきれいで、家事もカンペキって見えてても、結婚したとたんに子供に帰るわ。女が家事カンペキに見せるのは、結婚するための作戦だけど、ある意味、似てるわね。女は結婚後、その通
りに実行させられ、男は契約破棄をするだけ。
子供が欲しいっていう男だって、出来てみれば、嫌気が差す場合もあるのよ。だいたいね、子供が欲しい欲しいって、生むのも育てるのも女なのよ。
家事を協力するって? 子供が生まれたら育児も?
そりゃあ、その時になってみなければわからないわ。やるやるっていってた男が、子供が生まれたとたんに仕事に逃げて、仕事男だったのが、いきなりマイホームパパやっちゃうこともあるし。わかんないものよ。
難しいもんでしょう? 結婚て。
それにチャレンジするなんて、あなた、本当に偉いわ。その上、子供も産むつもりだなんて、この少子化の時代に、昔なら勲章ものよ。
でもやりがいはあるわよ。うまくやれば、上等な立場だって、お金だって、あなたの自由になるわ。なんたって、あなた、素質のいい男をつかまえたんだもの。
そうでしょ?
ええっ?
自信がなくなった?
離婚したい?
いまから?
いったい、どうしたの?
何か、わるいこといったかしら……。
Copyright(c): Hisae Ishii 著作:石井 久恵
◆ 「あなたが幸せになるために」の感想
*タイトルバックに「CoCo
Style」の素材を使用させていただきました。
*石井久恵さんの作品集が、文華別
館 に収録されています。
*光文社が一般公募していた「奇妙におかしい話」(阿刀田高選、文庫457円)に石井さんの作品が入選、収載されています。
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