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 古本屋を営んでいる傍らで、「県北どらくろあ」というミニコミ誌を発行している。最初は古本屋の宣伝をかねた月刊のフリーペーパーを出そうと考えたのだが、どうせやるなら地域の情報も入れておこうと欲張ったのが大きな墓穴で、ミニコミ誌に時間と労力を費やされて、本業の古本屋の仕事が疎かになってしまっている。
 それでも頑張って、毎月発行しているのは、自分の創作を連載しているから。プロ作家としては挫折してしまったので、自分で発表する媒体を確保しなくてはいけない。ここの「文華」に掲載すればいいだろうと言われそうだが、ネットでは今一つ、緊張感が足りない。実際、このエッセイも締め切りがグズグズになってしまって、月末にどうにかすべり込みで連載を継続しているという体たらく。たぶん創作も、「今月は書けませんでした」という謝罪文を出して終わりである。
 紙媒体だとそうはいかない。原稿を依頼している人が複数いるし、近在の図書館を中心に、月初めの発行日には所定の部数を届けている。穴を空けるわけにはいかない――、その緊張案があるから、何もアイデアが思い浮かばなくても、原稿がなかなか書けなくて徹夜になっても、毎月、作品を連載することができている。
 地元や身辺のことを題材にした、400字詰め原稿用紙換算で7枚ほどの小品で、連載タイトルを「現代御伽草子」という。どうせなら、読んで哀しくなるような世知辛い物語ではなくて、夢のある作品、つまりファンタジーを書こうと思ったのだが、愉しい題材はすぐに底をついて、けっこうシニカルな作品になってしまっている。
 昨年の12月号に載せたのが「古本夢譚」、ネットで掲載しているので、興味ある人は読んでみてほしい。小学校の図書室の本をモチーフに、幼い初恋を描いたつもりなのだが、予想外の感想が送られてきた。Mさんという東京で暮らしていたときの同人誌仲間で、「県北どらくろあ」を定期購読してもらっている。Mさんの許可を得て、手紙の内容を転載させてもらうことにした。

 節子の少女時代は、少しおマセな都会っ娘。いつも図書室を訪れる節子を好きになってしまった堀江君。それを知って、読むためでなくチョッカイを出すように「風立ちぬ 」を借り続ける節子。
 図書カードを震える指でなぞる堀江君の赤らんだ顔。本は節子そのもので、新しい本を買ってまで自分のものにしたかった堀江少年の心を思うと、切なさを痛い程感じてしまうのです。
 女の子の持つ残酷なまでの優越感とゲームのように軽い感じで、チャラっと実物を持ってゆく。 (中略)
 最後、節子は、古本屋まで手玉に取ろうとしているのだから。

 この手紙を読んで、いささかあわててしまった。ミニコミ誌を送付するときに、「Mさんは節子に似てますね」と余計なことを書いていたからだ。老年を迎えた節子の中に、少女時代の無垢な恋情が息づいていることを書きたかったなどと、言い訳のような返信を書いたのだが、「だから男は甘いのだ」と返す刀で一刀両断されてしまった。
 Mさんの同性に対する視線は厳しい……、いや、わたしの視線が甘いのだろう。希望や憧れで女性を描くので、実像に迫れていない。経験不足を露呈してしまっている。
 よし、したたかな女性を描いてやろうではないか、奮起して書いたのが今年の新年号の「古本奇譚」。しかし、送られてきたMさんの感想を読んで驚いた。ああ、雪女はこんな怖い女であったかと、Mさんの分析の方に納得させられてしまった自分がいる。
 まだまだ修行が足りない……、いや、もう女性について勉強する体力(財力?)も時間も残っていない。渡辺淳一の本でも読んでみるか。

Copyright(c):Masahiro Akagawa 著作:赤川 仁洋


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*亜木冬彦&赤川仁洋の作品集が文華別館に収録されています。


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