亜木冬彦&赤川仁洋 作品集表紙に戻る

前回次回

 先月にアマゾンでのネット販売のことを書いたが、予想以上、いや期待した以上の本が売れている。ベストセラーになった有名な本や高名な作家の著作は、いくら名作でも、どんなに内容がすばらしくても、大手のネット専門古書店が、送料の差額が目当ての捨て値で登録している。こうした安値の本で競っても勝てないので、いや利益が出ないので、1,000円以上の値がつけられる本を選んで登録している。
 もう一度、アマゾンの販売システムをおさらいしておこうか。販売登録には「大口出品登録」と「小口出品登録」があって、大口の場合は月額で4,900円の出品料をアマゾンに支払うことになっている。小口の場合は、売買が成立したときに一冊あたり100円の出品料を取られる。50冊以上売れれば、大口出品登録した方が得になる。
 販売手数料は、大口も小口も本の代金の15パーセント。 送料はどんな大型本でも、アマゾンが257円と決めていて、これは購入者の負担で、その金額がそのまま販売業者に支払われる。大手のネット古書店は、配送業者と大口の契約を交わしているので、実際の送料を低く抑えることができる。ここに1円本の秘密がある。百円で本を届けることができると仮定すれば、アマゾンから振り込まれる送料は257円なので、157円の差益を得ることができるという仕組み。
 しかし、うちのような零細業者は本を送るには郵便局のゆうメールがメインになる。昔は書籍小包と言っていたように記憶している。一般の郵便物よりは料金が安く設定されていて、これにも規格内と規格外がある。 長辺が34センチ以内、短辺が25センチ以内、厚さが3センチ以内、そして重量が1キロ以内が規格内である。
 そのうちの一つでもオーバーしてしまうと規格外になってしまう。たいがいは厚さがネックになる。千円以上もする本となると分厚い本が多いので、厚さが3センチを超えてしまい郵送料も高くなる。いちばん多いのが規格外で重さが1キロ以内というケース。これだとゆうメールの料金が450円になってしまい、送料だけで193円の持ち出しである。
 しかし、我がどら書房に強い味方がいる。わたしの父親が集めていた切手だ。記念切手が発売される毎に、シートで購入していた。趣味というよりも利殖が目的といった方がいいだろう。切手のファンというよりも、父親が興味を持っていたのはお金。何倍にも値上がりするだろうと目論んでいたが、現状はその逆である。
 いま切手を処分しようとすると、引き取り価格は額面の8割が相場だそうだ。しかも、状態の良いシートがその値段で、汚れたりバラだと買い取ってもらえない。だったら、本来の切手として使った方がまだマシである。というわけで、ゆうメールの封筒にせっせと記念切手貼って郵便局に持ち込んでいる。料金不足だと購入先に迷惑をかけるので、かならず窓口で大丈夫かどうか確認するようにしている。
 具体的な数値を入れて、実例を紹介しようか。アマゾンのサイトで手持ちの古本の価格を調べて、最低価格が3,000円で登録されていることがわかったとする。販売業者の一覧が、値段が安い順に表示されている。本の画像やタイトルの上に、「販売するものをお持ちですか?」という一文があるので、リンクされている「販売」の文字をクリックすると、サインインのページが表示されるので、パスワードを入力して出品用アカウントのページにログインする。
 最初に本のコンデションを入力する。「新品」「中古-ほぼ新品」「中古-非常に良い」「中古-良い」「中古-可」、「コレクター商品-新品」「コレクター商品-ほぼ新品」「コレクター商品-非常に良い」「コレクター商品-良い」「コレクター商品-可」、この中から選択。コレクター商品というのが今一つ理解できないのだが、そんな大層な本はうちにはなさそうなので、中古の中から選ぶことにしている。
 今回の本はかなりヤケや汚れがあるから「中古-可」にしておこう。 次に具体的な本の情報を書きこむ。「1987年第3版、帯なし。経年によるヤケや汚れがかなりありますが、破損はなく、読むのに問題はありません」、こんな感じ。次に個数を入力、といっても1つだが、それから値段を設定する。今回の本はちょっとコンデションが悪いので、最低価格よりも500円安くしておくか。つまり、販売価格は2,500円ということになる。
 その本が欲しい人は、2,500円(本代)+257円(送料)、2,757円をアマゾンに支払うことになる。購入時の決算が終わったら(ほとんどがクレジットカード)、その本を登録している古本業者に「注文確定-商品を発送してください」というメールが届く。
 自分の出品アカウントのページにログインして、納品書を印刷。宛先も一緒に印字されるようになっていて、切り取って送付時に貼付する。納品書と一緒に本を梱包、それを郵送、あるいは配送業者に託したら、出荷通知のボタンをクリックして、配送方法を相手に連絡するようになっている。ネット販売では世界一のマンモス企業だけに、このあたりの簡素化されたシステムはさすがである。さしてパソコンの操作やネット環境に詳しいわけではないわたしでも、簡単にネット販売に参入することができた。
 さて、いったいいくらの儲けになったかというと、代金の2,500円から登録料の100円と15パーセントの手数料が引かれて2,025円。これに送料の257円が加算されて、2,282円がどら書房の口座に振り込まれる。郵送料に450円の切手を使ったとして、1,832円の利益。これは、タダで本を引き取ったと仮定しての話で、買取であれば当然、その金額を引かなくてはならない。このエッセイの最初の方で、1,000円以上の値段を付けられる本しか登録していないと書いたが、その理由がわかってもらえただろうか。本を梱包、配送の手続きをするだけで、かなりの手間がかかっている。
 アマゾンで販売を行うには出品登録をすればいいのだが、古物商の資格は必要ないようだ。入金出金はすべてアマゾンが管理&経由しているので、販売をアマゾンに委託しているという形式になるのだろう。他にヤフーのオークションを利用している業者も多い。これだと自分で商品の撮影をしないといけないので、もう少しアマゾンでの売買に馴れてから挑戦してみようと思う。
 どら書房が登録した本でどんなものが売れているかというと、高価な専門書が多い。古本屋を始めた当初、大量に引き取った本がある。国際法関係の専門書で、高名な大学教授の実家が近所にあって、無料でいただいてきた。こんな専門書は誰も買ってくれないだろうな……、予想した通り、店内では一冊も売れていない。その国際法の専門書をアマゾンで検索すると、かなりの高額で登録されている。こんな値段で本当に売れるのかな? 半信半疑で出品すると、これがよく売れたのだ。ネット販売は、日本全国が顧客なのだとあらためて実感した。
 どら書房の店頭に100円本コーナーがある。わたしが東京にいた頃に、図書館からもらってきた本がある。除籍本というやつで、図書館の在庫整理のために定期的に無料で放出される。その本を100円本の棚に並べていたのだが、ずっと売れ残っていた。試しにアマゾンで調べてみると、最低価格が3,000円で売られている。図書館の除籍本なので、その半額の1,500円で出品すると、すぐに売れてしまった。マニアックな本ほどよく売れる。
 最初にぱたぱたと順調に売れたので、「これはいいぞ、道楽書房ではなく、ビジネスとしてもいけるんじゃないの? 」と喜んだのだが、ぱたりと注文がとまった。世の中、そんなに甘くはできていない。自分が出品した在庫を確認するページがあるのだが、最安値がいくらかも表示される。登録時はいちばん安い値段をつけたはずが、いつの間にか他の業者に最安値を更新されている。しかも、みみっちく1円だけ値引きしている業者が多い。
 売れる値段にしたいが、1円でも高く売りたい、それが業者の本音だろう。安売り競争では、大手の業者にかなわない。売るためには、他の業者が持っていない本を探してどんどん出品するしかない。さいわいなことに、在庫本はたんまりある。どんな本に高値がついているのか、実際に検索してみないとわからない。まるで宝探しのようである。

Copyright(c):Masahiro Akagawa 著作:赤川 仁洋


◆ 「風に吹かれて(95)」の感想 (掲示板)
合い言葉は「ゆうやけ」

*亜木冬彦&赤川仁洋の作品集が文華別館に収録されています。


亜木冬彦&赤川仁洋 作品集表紙に戻る