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ハーッと息を吹きかけながら、手のひらを擦ってみても、薬指と小指がしびれる様な寒さとは、もうそろそろお別れでですね。
かじかんだつま先の痛みが和らいでくると、地面を踏みしめて歩いてみるのも楽しみになってくるでしょう。お散歩していると、寒気に掃除された様な真っ青な空が、体を覆い纏います。
新しい陽の光が迎えに来ましたよ?暖かい春の日差しがあなたに挨拶してますよ?

長いトンネルというのがあるんです。入り口に入るのはとても簡単なんです。気付かないうちに入り込んでいたり、自分から勝手に迷い込んで来たり。別に、好き好んで入って来なくてもいいのに。
慌てふためいた人たちは、首を振ってあちこちを見たり、生真面目な目をして皺を寄せたり。
頼れるものには手探りで、とにかく触れたいと思うけれど、そんな時って心にあまり自信が無いんだよね・・・。

季節が幾つか過ぎると、話し掛けてくるんです。「誰が?」
落ち着きを取り戻した私は声に耳を傾けられるようになりました。玄関を開けると、寒さの中に時折暖かい風が割り込んで入って来ます。
厳しい経験の後は僕の出番だよ・・・って声が、聞こえた気がしたかな?真冬とは違う匂いがします。
西高東低の天気予報も見かけなくなる頃、ベランダの洗濯物を取り込んでいると、夕方前の柔らかい暖かさが肩を通り抜けていくんです。
二月下旬、いとこに新しい命が生まれました。
生命の息吹きが疼き始めるころ。凍えていた心を溶かすころ。窮屈になった服を脱ぎ捨てて、別の人間に生まれ変わる時。いろんな悩みを抱えてる、人間というあたりまえな存在。空だって、雲をどかして太陽を降り注いでいるんだから、その光を貰わないと、もったいないじゃない!

森や林から、木々達が時々意地悪をしてくるんです。悲しくないのにしょぼしょぼと、涙が出るんです。「早く暖かくなるといいですね。」と言ったり、「つらい時期がやって来ますね。」と言ったり。人間はちょっぴりわがままな生き物なのかもしれませんね。
不安な人も、雑踏が怖い人も、少し勇気を出してみて、表の空気を吸ってみない? 結構面白いかもよ!

走っていた足を止められた私は、足踏みすることしか許されず、寒さの中に晒された意味をようやく体が覚えたみたいです。
疲れは取れましたね。他にも疲れてる人は沢山居るみたいだけど、私を訪れた訪問者は、また新しい人に力を貸しに行くんだと、ことずけを残していきましたよ・・・。

Copyright(c): Yutaka Araki 著作:新木 結太佳

◆「木漏れ日の訪問」の感想

*新木結太佳さんの作品集が 文華別館 に収録されています。《文華堂店主》


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