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貧乏なんです。うん、貧乏なんですよ、夢を追う人って・・・
そう、貧乏なんです。『しつこいわっ!』って感じですが・・・。

まぁ、環境に恵まれてる人も、中には居るでしょうけど。
大概は貧乏なんじゃないですか?
どんな夢や目標を持って、突き進んでいくのか。それは、他人には容易に知り尽くす事の出来ない、奥が深い道をひたすらに進んでいくものなのだろうけど。
親や親戚には、簡単に賛成などしてもらえるはずもない様な、壮大な夢を時には抱いてみたり。
あるいは、家を出て行けとか、勘当されたりする人も沢山居るのでしょう。
若い時には、勢い余って言われた通りに出て行って、だけど、生活するのに精一杯で、本当にやりたかった事にはなかなか手がまわらず、そのうちに、家賃も満足に払えなくなったりとか・・・・。
結構、意外とお金もかかるもので、空いてる時間にアルバイトをして生計を立てたりするのですが。
昔の苦い経験を辿ってみると、月に13〜14万程度という金額だったりもするので、下手に遊びに行ったり服を買ったりなんて出来ません。
ゆとりの無い自分、夢の為に娯楽や贅沢を我慢している自分に、その時は酔いしれていたのでしょう。
また、夢を追うってそういうものなんだと、漠然と思い込んでいましたから。
世間から、まるで華やかそうに見られている姿って、長〜い道のりを越えて来た人達の、やっと報われた一つの形の表れ方でしかないのですよ。
その後ろ姿には、みすぼらしいほどの格好だって、いっぱい詰め込まれているのだから。

それに、孤独なんです。
親元で面倒見てもらいながら、夢を叶えようなんて言ったって、それは自分の馬力で実行している訳ではないのだから、実力にはならないんだし、叶うはずがないだろうと、思ってはいたものの・・・。
一人前に、デカイ口を叩いて家を出たくせに、弱音が次々と口を吐き、傷がどんどん体に刻まれていく。
辛い時や寂しい時、仲の良い友人が近くに居れば、話し相手にもなってくれて、心情を分かち合えたりしますが。
一人、戦士の如く誰も知る人の居ない地へ行ったのなら、これは、いざという時に、寂しさが強烈に突き刺さるんです。
希望の裏には必ず絶望があります。
希望を持って目的地に向かって行く時、そこには表裏一体で絶望が付いて廻ります。そう、ある種のつき物でしょう。
でも、最初から絶望的だ、無理だというわけではありませんからね。一番初めにあるのは希望です。
時に、不注意から転んでしまった時に顔を出すのが、絶望です。
その絶望に攻められた時の、どうしようもない孤独・・・。
誰が助けてくれるわけでもありません。誰が代わりに悩みを解決してくれるわけでもありません。
そして、僕の場合、うまく恋も出来ませんでした。
素敵な女性が目の前に現れました。
年齢もあまり変わりませんでした。が、中にはちょっとだけ年上の女性と出会ったりもしたり・・・。
一人暮らしの細々とした毎日に、いつ叶うかも分からぬ夢を追って、恋はしたいけど先なんか一向に見えない、分からない、約束出来ない・・・・
『・・・好きな人が出来ると、人は夢に向かって真っ直ぐに走る事が出来なくなる・・・』、なんて台詞をどこかの映画で見た事もありましたねぇ・・・。
そう、僕は多分そのタイプでしょう。
逆に、一層真っ直ぐに突っ走れる人もいるのですが。
その場の感情に任せて、今恋がしたいから恋しちゃえばいいんだと、勢いに乗っかっちゃえば、それも簡単だったろうなぁ・・・。
悔しかった思い出は、夢を追う、そんな人に親しみが湧いて、僕に思いを寄せていてくれた事・・・。
悔やみきれない思い出は、そんな彼女に、正直に正面からぶつかれず、横から攫われてしまった事・・・。
不器用で、
へたくそで。
でも、自信喪失していた自分なら、付き合ってもうまく行かなかっただろうなぁ・・・と。
振り返った孤独は、人のものとは比べられない深さを、自分の中で持っているものです。

だけど、プラス思考なんです。
人生は、続いているのですから。
夢はそのうちに、ぼんやりと薄くなったり、しばらく姿を隠していて、決まった季節のサイクルを持たずに冬眠をする事もあるのです。
しかし、情熱の炎を燻らせている人は、心で自分に何度か問いかけるのです。
本当にやりたいこと、本当に好きなこと、本当に楽しいこと、本当に生きたい道、そして、本当に喜びを感じられるものは、何。
何度も自問自答したりするけれど、自分の本音は前から薄々分かっているんじゃないの・・・・・
出口のはっきり分からぬトンネルに迷い込んだって、誰にも負けない粘り強さで窮地を突破していくのでしょう。
一度、本気で志した世界への感情の高ぶりが、時間を経ても本物である時、邪魔をしてくる厄介ものも打ちのめしていくのです。
そうして強くなった者は、いつしか夢を掴めるのかも知れません。
掴めなくっても、『・・・しょうがないよ。お前は良く頑張ったよ・・・』なんて健闘を讃えるだけの言葉は、欲しいものなんかじゃないんです。だから、掴めるまで続けるのでしょう。
それほどまでに強くいられる理由は何か。
一つの絶対的な特徴です。
そう・・・・プラス思考なんです。わざわざ今更言うまでもない理由ですが。
勇気があると、カッコ良い響きで時々言われた事もありますが。そんなもんでもありません。
ぶざまだけど一途な、馬鹿な自分を押し通しているだけ。
とび込んで、我慢をして、羨ましがり、寂しがり、恋を忘れ、挫折して、我を忘れ、そして這い上がった者は、やがて立ち直り・・・。
そんな経験と歴史を作りながら、紆余曲折を潜り抜けて、傷や切なさを味わいながら、なんとも言えない信頼感や安心感を醸し出して、知恵と糧と根性を持って前進していく夢を追う人は、また・・・・魅力的なんです。

Copyright(c):Yutaka Araki 著作:新木 結太佳

◆「夢を追う人」の感想

*新木結太佳さんの作品集が 文華別館 に収録されています。(文華堂店主)


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