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 レコード会社が獲得争いをしているインディーズロックバンドが音楽業界で話題を呼んでいる。彼らの名は、東京ドームでのライブを目指して結成したDFKamiKaze(以下、KamiKazeと表記)。99年春から、プロデューサー沢木剣(2001年現在36歳)によって集められたメンバーは、メインヴォーカルRYO(同24)、サイドギター&ヴォーカルKAZU(同22)、リードギター&ヴォーカルTOMO(同21)の3人。それに、打ち込みのベースとドラムを混ぜた演奏で、渋谷を本拠に路上ライブを開始した。
 そして、ライブを繰り返すうち、ベースのSASUKE(同18)やドラム徳山蓮(同21)と運命的な出会いを果 たし、同年9月に5人の生粋ロックバンドとして、本格展開をスタートする。
 KamiKazeは、メンバー構成からわかるように5人中3人がヴォーカルをとる。ミディアムロックのRYO、バラード及びアコースティックのKAZU、ハードロック及びアコースティックのTOMOと、各人の個性を曲に反映させている。
 正式なヴォーカルは3人だが、ベースのSASUKEが歌う作品も数曲あり、「基本的には歌わない」ことを宣言する徳山蓮も、気持ちが高まった時のみ歌を披露する。いくつものヴォーカルよってさまざまな雰囲気のロックナンバーを網羅していることが、彼らの強みと言える。
 特筆すべきは曲だけではない。KamiKazeは“聴きやすい音楽(ロック)をテーマ”とし、15曲で1つのラブストーリーを展開するというコンセプトを掲げているため、歌詞にも注目が集まっている。
 彼らは、バンド形態が個性的なだけでなく、結成当初から路上ライブを敢行するなど独自の手法で次々にファンを開拓してきた。ファンクラブ会員数は、2001年9月現在で6500人以上。2002年1月3日には、デビュー前にもかかわらず赤坂ブリッツでワンマンライブを行なう予定で、ますます期待が高まっている。
 私が彼らと出会ったのは、99年11月下旬の池袋西口公園だった。公園の端にいたストリートミュージシャンと話をしていると、突然、中央で爆音のような演奏が鳴り響いた。気になった私達は、音のする方へ向かった。やたらと多くの人々が、何かに群がっている。若い女の子を中心に、ざっと200人程はいたと思う。囲まれていたのがKamiKazeだったのだ。
 彼らは、エレキギター、エレキベース、ドラム、マイクを通した歌声で異彩 を放ち、公園中のアコースティックライブを一蹴。曲はどれも不快感がない。それどころか、初めて聴くとは思えないほど心地よく耳に馴染んだ。メンバーは全員、お揃いの黒いTシャツとダークな色のパンツを組み合わせただけの素朴な服装であるのに、とても華やかだった。
 私は“今までに見たことがないすごいバンドだ”と直感。放心状態で聴き入る私達に、彼らのスタッフさんが「もうすぐデビューするバンドです。CMソング起用の話も来ています」と説明してくれた。「彼らの曲は良いものばかりだから、メジャーに上がれるのはよくわかるな〜」と純粋に感じるほど、私にとって魅力満載のアーティストに映った。
 私は、次の路上ライブ以降も彼らの演奏を聴きに出掛けた。私が出会った場所は池袋だが、彼らが本拠としていた地域は渋谷。専ら、毎週土日の夜に駅周辺のハチ公前(正確には東急百貨店前)でライブを行なっていた。機材をセッティングする段になると、ファンが次々に集まって来る。他のバンドが隣でライブをしていることも多々あったが、集客率は常にKamiKazeがナンバー1。数にして、およそ200人、300人・・・とにかくたくさんいたと記憶している。若い女性主体の固定ファンに加え、彼らを全く知らない通 りがかりの人をも魅了。男性や年配層までも取り込んでいた。
 演奏開始は、たいてい夜9時頃。「僕らKamiKazeと申します。幅広い年齢層に受け入れてもらえるよう、聴きやすいロックをテーマに曲を作っています。たくさんの人々に演奏を聴いてもらうことを目的として、路上ライブをしています」などと、何度も丁寧に自己紹介しながら演奏する姿が深く印象に残っている。路上には大勢の耳に触れる機会が多いうえ、KamiKazeの曲と演奏には、人の心を惹きつける不思議な魅力がある! 閉塞的なライブハウスと違い、ストリートには、彼らの音楽が空気を伝ってどこまででも届いて行くような無限の可能性を感じた。
 ライブが終わると各メンバーが、ぐるりと取り囲んだ大勢のオーディエンスに向かい「ありがとうございました!」と言って頭を下げながら、端から端まで挨拶して回る。演奏は毎回30分程度。私は短い時間の中でも大量 の充実感に浸り、週末の路上ライブで得た元気を、平日の学校や仕事で活力に換えることができた。
 私は、ライブハウスにも通った。私が初めて参加したのは、2000年2月に行なわれた渋谷クロコダイルVol.2。250人程度が入れるライブハウスでのワンマンライブだ。当時はまだチケット完売には至らなかったが、結成して半年ほどでワンマンができる程の集客力があることには、とても驚いてしまった。ライブハウスでは、路上よりも時間が長いため、路上では演奏しない曲を披露してくれたり、バンドや各メンバーの個性がより明確になったりする。また、KamiKazeファンだけが集まるライブなので、オーディエンスが路上ライブ以上に盛り上がる。ストリートにはない楽しみを知り、私は完全にKamiKazeファンとなった。
 私は、最初にKamiKazeと出会った時は、デビュー前のキャンペーンという形で路上ライブを行なっているのだと勝手に思っていた。しかし、ライブを見続けるうちに、違うことに気づいた。彼らは、従来の有名ミュージシャンが通 って来た道をなぞるのではなく、独自の手法で東京ドーム公演を実現しようと考えている。
 その第1歩が路上ライブ。KamiKazeファンではない人の反応も直に伝わってくる厳しいストリートで、納得いくまで演奏を重ね、技術や人気を十分に獲得したところで次のステップへ進もうと計画していたようだ。だからこそ、何かと制約の多いレコード会社とはあえて契約せず、自分達のやり方でとことんやり通 すという独自の道を選んだのだ。
 2000年のゴールデンウィーク前後からだったと記憶するが、KamiKazeが路上ライブの拠点を東京都の新宿、町田や、群馬県の高崎、埼玉 県の大宮、千葉県の柏の駅前へも広げるようになったことで、著しくファンが増えた。同時に、ハコ(ライブハウスの意味)ライブの拠点も広げ、チケット完売を達成するようになる。 
 とても順調に成長していたKamiKazeだが、実は路上ライブ中に警察から注意を受けることが度々あった。演奏をやめさせようとしたり、スタッフさん達と何やら話をしている警察官の姿を、私も何度か目撃したことがある。機材の電源を抜かれても生声・生音で頑として演奏を続け必死にライブ中断を拒むKamiKazeと、どうしても演奏を聴き続けたい気持ちを一丸となってアピールするオーディエンスの気合に根負けしてか、ライブ中は警察官とのやり取りが大騒ぎになることはなかった。それでも、いつの頃からか、路上ライブをどこで何時から行うかという情報公開が不可能になってしまった。警察サイドとの問題がさらに深刻になっていることが伺える。
 そんな中、2000年11月、路上ライブが原因でKamiKazeが逮捕されたというニュースが飛び込んできた。新聞各紙には「道路交通 法違反容疑、ロックバンドKamiKaze異例の逮捕」といった記事が並び、テレビでも報道された。ニュースキャスターの中には「路上ライブをしているバンドはたくさんいるのに、なぜKamiKazeだけを逮捕するのだろう」、「何も逮捕までしなくても、他に解決方法があったのではないか?」とコメントしている人もいたようだ。私も同感だった。同時に「逮捕以前にファンが必死で行なった、署名活動や抗議を通 じての懸命な思いは、警察に届いてくれなかったのかな」と落胆し、ショックを覚えた。
 KamiKazeの心が「街の人に演奏を聴いてもらいたい。1人でも多くの人に認めてもらって、いつか絶対、東京ドームでライブをするんだ!」という、純粋かつ真剣な希望に満ちていたのは、ファンにもよく伝わってきた。私は、そんな5人の演奏から無限の楽しみと元気をもらっていた(今ももらっている)。平日は「週末になればKamiKazeのライブがあるからがんばろう」という気持ちで辛い仕事を乗り越えることができる。
 彼らのライブを楽しんだ後は心が明るくなって、「明日からまたがんばろう」と活力が湧いてくる。現実と向き合うことができるのだ。私以外にも、彼らの曲を聴くことで日常生活を笑顔で過ごせる人は大勢いる。KamiKazeの曲はたくさんの人の心を潤してくれた。横道にそれそうな人には真っ直ぐに歩く勇気を、人間関係で悩んでいる人には、前向きに考えるパワーを与えてくれたこともある。
 以上、逮捕当時に私が考えたことを熱く述べたが、「KamiKazeには全く非がなかった」と言いたいわけでも思ったわけでもない。「結果 としてはKamiKazeが社会的制裁を受けたが、彼らの真剣な演奏を聴いて元気になれる人だってたくさんいる。だから、KamiKazeが路上で真剣に奏でてきた音楽は、全面 的に迷惑をかけていたわけはない」という事実を、KamiKazeを深く知らない人や逮捕のニュースで初めて彼らを知った人にもわかっていてほしいのだ。
 KamiKazeは12月上旬に出所し、現在も精力的に活動を続けている。逮捕以外にも実にさまざまな苦難を乗り越えてきた結果 、日に日に個々の自覚が強くなり、ライブの勢いやバンドとしてのまとまりが徐々に増してきている。
 活動場所は2000年12月から、路上に代わりライブハウスに重点を置くようになる。2001年10月後半からは関東を飛び出して初の名古屋ライブを行なった。KamiKazeは存分にオーラを発揮して、名古屋のファンもたくさん獲得した。
 KamiKazeは、2002年1月3日の赤坂ブリッツでのワンマンライブ後、本格的に全国展開をスタートする。来春にはレコード会社を決め、デビューする計画もあるとのことだが、あくまでも予定。KamiKazeは、自分達のやり方で東京ドーム公演を達成しようという強い意思を持って活動している。そのため、レコード会社との話し合いは、非常に難航しているようだ。何よりもファンとの絆を優先するKamiKazeなので、デビューは先に伸びる可能性もあるかもしれない。
 KamiKazeには、演奏技術をはじめとする課題も多々あるが、彼らはとても魅力的なオーラで心を惹きつけるバンドである。そんなKamiKazeが東京ドームに立つ日が必ずくると、私は確信している。


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