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 幼なじみのみっちゃんには、お姉さんがいる。お姉さんは私と同い年。でも、私が遊ぶのはたいていみっちゃんだった。みっちゃんは元気印を絵に書いたようなショートカットの子で、お姉さんはおとなしそうな子だった。今はもうどこかよその土地へ移ってしまった。今ではもう連絡をするすべもない。
 小学校1年生だった夏休みのある日、私はみっちゃんのお姉さんの夢を見た。夢の中で、みっちゃんのお姉さんが幽霊になっていた。ボロ屋の我が家は、どういうわけか、まるで透き通ったガラスのようであり、透明な壁の外をスーッと移動するだけの夢だったけれど、朝、目が覚めた後、私はみっちゃんのお姉さんが無性に恐くなってしまった。
 みっちゃんのお姉さんはおとなしい子だったけど、別に幽霊のように陰気な子ではなかった。なのに、なぜそんな夢を見たのか。夢というものは不可解である。ただ、それから何年かして、みっちゃんが妙なことを言っていた。みっちゃんのお姉さんが、夜中にパジャマ姿で突然外へ出てしまったという。どこへ行くのかと思っていたら、井戸の方へいったと言う。どうやら本人は覚えていなかったようで、たぶん夢遊病だったのだろうと思う。
 そして小学校2年生になった夏休みのある日、私はまた夢を見た。去年の夏に見た夢とまったく同じだった。そうすると、また来年の夏になったら、また同じ夢を見るのだろうかと、夏が過ぎ、秋になり、季節は瞬く間に通り過ぎていっても、そればかりが気になるのである。また親切なことに、幽霊の話がよく似合う真夏にそんな夢を見ることはあるまいに。
 そういえば、楽しい夢だったことが何回あっただろう。たいていはだれかに追い掛けられている夢だったり、クラスメートにいじめられている夢だったり、突然がけから落ちる夢だったり、ろくな夢じゃない。だから、やたら気になって、夢占いの本をずいぶん買ったものだ。そのたびに、「こんな夢を見たからいやなことが起こるかしら」「あんな夢を見たから、事故にでも遭うかしら」と気にしてしまう。
 だったら最初から夢占いの本など見なければいいのに、本屋に足が向くとついつい買ってしまうのは、心の弱い人間の性(さが)なのね。でも、夢の中で理想の人に巡り会ったこともあったっけ。そんな夢を見た時は、きっと正夢なんだわ、と期待してしまう。
 また、そんな夢を見たときは、大抵ミステリー小説の主人公にでもなったように、二人手に手をとって、悪い奴らから逃げているのだ。すると、大抵逃げているうちに、二人ははぐれてしまい、必死に、その理想の人をさがすのである。あら、やっぱりいやな夢じゃない。それにしても、夢の中では理想の人だったはずなのに、目覚めると顔の部分だけは霧の中にいて、いくら思いだそうとしても、輪郭さえもはっきりしないのはしゃくだわ。どんな人だったのか、できればもう一度続きを見てみたいものである。
 そうそう、朝起きる間際に夢を見ると、目覚めが悪いのは私だけかしら。もう、眠くて眠くて『リリリリリーン』と鳴る目覚まし時計が恨めしい。
 でも、夢はだれでも必ず見ていると言う。それも覚えていないほどよく眠ってしまうと、一気に朝がきてしまい、なんだか損した気分。もっとも悪者に追い掛けられる恐い夢を見るよりはましというもの。それがまた正夢だったら目も当てられない。その時はきっと、眠ること自体恐くなって、目を閉じないようにセロテープでとめて、目が充血するまで必死に眠気と戦うのかもしれない。まあ、今のところは良くも悪くも正夢だったためしはないので安心だ。
 そういえば、うちの母は昔、お葬式の夢を見ると、大抵知人か近所の人か親せきの人が亡くなると言っていたっけ。それがまた、そんないやな話をした直後、私に一言。
「そういえば、夕べお前が事故に遭った夢見たよ」
「えっ! 勘弁してよぉ! もう、いやな感じ!」
 母は、「ハハハ、大丈夫だよ」と笑っていたが、それを聞かされた方はたまらない。それからしばらくの間、道路を渡る時は細心の注意を払ったものだ。
 結局、母の正夢は葬式に関することだけらしい。それだって滅多に見ないというから、ホッと一安心。もっともそれはただの偶然なのだと信じたい。
 そうそう、もう一人いた。元職場の後輩で、正夢になる子がいた。その子は、滅多に夢は見ないと言っていたけれど、その代わり、見た夢は必ず正夢になるという。そしてこうも言っていた。朝御飯を食べる前に人に話してしまえば正夢にならないというのだ。本当かな。だから、いやな夢を見た時は、必ず朝食をとる前に家族に話してしまうという。それなら正夢でもいいか。都合のいい夢を見た時だけ、朝御飯を食べながらほくそ笑んでいればいいのだから。いいなぁ、私も正夢が見たいな。

◆「正夢・いい夢・恐い夢」の感想

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*友枝さんは、旧・ライター掲示板 の8番でライター登録されています。また、「夢探検」文芸&アート リンク)というご自身のサイトで作品を発表されています。
文華別館にも、友枝さんのエッセイ集が収録されています。


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