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小説よりも不思議とは言えないかもしれませんが、本当にあった話です。
数年前、新宿に勤めていた私は埼京線で埼玉の自宅とを往復しておりました。
月初めの土曜日は半日の出勤となっており、その日も月初めの土曜日で勤務を終え、お昼を友人と自宅近くの駅でとる約束をしていたので、急いで電車に乗り込みました。
電車の中は土曜日でしたが人はまばらで、みんなゆったりと座っていました。
池袋を過ぎ、車内のアナウンスは「次は板橋〜、次は板橋〜」と次の駅を告げ、間もなく板橋駅に着いて、数人の人が乗り降りしました。電車は走り出し、また車内アナウンスが響きました。
「次は板橋〜、板橋〜」と。
車内には板橋から乗ってきた乗客が居たので、その方は「ぷっ」と吹き出しました。
私も少しおかしくなりました。「ああ、きっと車掌さんが間違えたんだな」と思い、すぐに訂正のアナウンスが入るぞと思っておりました。
しかし訂正のアナウンスは入らず、電車はちゃんと板橋駅に着いたのです。
驚いたのはなんと言っても板橋駅からの乗客の方でした。
「ええっ!」と駅に降りたり電車に乗ったり、周りを確認したりしていました。
私も驚いて、つい立ち上がってしまいました。車内の方々と顔を見つめあい、口々に「さっき、板橋でしたよね」「私、板橋から乗ったんですけど・・・」とお互いに確認しあったのですが、電車は何事も無かったかのように発車しました。

Copyright(c): Yuriko Kanai  著作:金井 百里子


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