今日、電車に乗っていたらきれいな人を見つけた。
きれいな人と言うと、女の人を想像するかも知れないが、私が見つけたのは男の人である。
年齢は・・・23、4いや、もっと若いかもしれない。
どこにでもある灰色のセーターを着て、どこにでもある黒いマフラーを首に垂らし彼は新聞を読んでいた。
新聞の記事を追っている彼の瞳を見ると、なんとも青い、海に氷を溶かしたような透き通った、魅力的な瞳をしていた。
(ジロジロ見るなんて・・)と思ったが、あまりのきれいさに、上から下まで観察するように見入ってしまった。
それでも彼は私の視線に気がつかず、新聞の記事を読んでいる。
身長は優に185を超えるだろう。
またこれが、なんてことのないブルージーンズをはいていて、だからこそ彼の足の長さが余計、際立った。モデルであってもおかしくない。
どこの人だろうかと、彼の顔をよく観てみる。
スパニッシュと、どこか、ほかの国の混血と、直感で思った。
こういう街で見かけたステキな人をフィルムに収めてみたい、と私は常々考えていた。
今そうしていなかったことに、痛く後悔した。今カメラがあれば彼に話し掛け、フィルムに収めることができたかもしれないのに・・・。
やがて列車は目的地に着き、気がつくと、どうやら彼もそこで降りるらしい。
彼が私の方を見ている。
列車を降りる前に、結わえていた髪を直そうと、それをほどいた時だった。
私は目を合わせないようにした。
列車が駅に着く。
私が、デッキの真ん前に立っている彼が歩き去ってしまう前に、もう一度よく、顔を見ておこうと、彼が向き直ったころあいに"サッ"と、彼を見た時である。
彼は"クルッ"と首だけ振り返り、私と目を合わせた。
あまりにもきれいなブルーアイのせいだろうか、真っ向から見た彼の瞳は何故か
寂しげだった。
ドアが完全に開いたと同時に彼は列車から降りた。
私も彼の後に続く。
人ごみと共に、彼の長い足はどんどん先へと進んでゆく。
私はエスカレートに乗った彼の後ろ姿を、名残惜しそうにながめる。
(彼は一体何をしている人なのだろう?)(これからどこへ?)(彼女はいるのか? いるのだとすればそれは一体どんな彼女なのだろう?)(いや、彼女はいない。)(彼のような男の目に、私はどの様に映っているのだろう?)
彼への問いかけは、留まるところを知らない。
このまま彼の後を追いたい心境になった。
"フイ"に、私のつま先が彼の行き先へ向けられる。でもそこで立ち止まった。
(追ったところでどうなるのか? どうせカメラも持ってないんだし・・)
街の中に出た彼は"アッ"という間に、人、車、トラム、ビルに紛れてどこかへ消えてしまった。
本当に惜しいことをした、と思った。
(お金をためてカメラを買おう。)
もし、彼と縁があるのなら、またいつか出会うだろう。
そう自分に言い聞かせ、雨雲が晴れ上がって行く青い空を見上げると、そこにはまだ彼の"青い瞳"を思い出す私がいた。
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◆「絵になるきれいな人」の感想
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