T-Timeファイル表紙に戻る

午後9時過ぎ。
ふと、ドライブをしたくなった。

外に出てみると、少し風が冷たい。
車に乗り込めば大丈夫だろうと、ジャケットを取りに戻る気もなかった。

昼間の曇り空が嘘のように、月が顔を覗かせている。
満月の出来損ない、明日は完全体になるか。

アパートの前を走るRand.Rdを北西に向かい、
しばらく走った後で、Wauconda傍のGSでガソリンを満たした。
売店に入ると、少し古そうなホットドッグの匂いが鼻をつく。
昼から何も口にしてなかったので、それでも充分だと思い、
ついでに腹も満たすことにした。

さらに北上し、Lakemoorが見えてきた。
この辺りになると周りの街灯など一切無く、暗い闇が続く。
もちろん日曜日の夜ということもあって、車の数も無いに等しかった。
時折、対向車のライトに目を奪われ、中央線の位置を再確認する。

ラジオの音を小さめにし、窓をあけてみた。
思ったよりも風は冷たくなく、逆に心地良ささえ与えてくれた。
「景色」というほどの鮮やかな風景は見えるわけも無く、
黒い森がひたすら続くだけではあるが、だからこそ静けさを感じることが出来た。

Foxlake。 こんな遠くまで来てしまった。
昼間であれば家族連れや恋人たちが賑わう場所であっただろう。
だが今夜は、湖と自分、ただそれだけだ。

車を止め、湖のほとりに向かった。
売店で買ったBudweiserの蓋を開け、一気に半分ぐらいまで飲み干す。
もう、最高に美味かった。
暗い森の中の、暗い湖の上には、たった一つだけ明るい月が照らされていた。
ときどき吹き抜ける風が水による波紋を作り出し、月もゆらゆらと揺れている。

想像するにはちょっと難しく、偉大過ぎる風景だった。
世界中どこにいても、きっと誰もが同じ月を見ている。
大なり小なり、考えることや思うことは人それぞれ違えど、
きっと皆、この月を見ていることだろう。

そんなことを思っていたら、不思議なことに気がついた。
月はどこに向かうのか。 月はどうしてこんなにも素晴らしいのだろうか。

この地球上でたった一つだけ綺麗なものがあるとするならば、
それは間違い無く人間などではない。 ましてや心なんてものでもない。
それはもしかしたら、人間である以上知ることの出来ないものなのかもしれない。


月はどこに向かうのか。 なぜ何もかもを照らすのか。
出来ることなら、俺の中の本当の自分をも照らし出してほしいと、
そう、今は願いたい。


表紙に戻る