●T-Timeファイル ●表紙に戻る

 昨日の夜、私の愛する旦那は真っ直ぐな笑顔でこう言った。
「子供が出来たら2人でなかなか旅行に行けなくなっちゃうから今のうちにいろんな所に遊びに行こうか」
 こんなたわいもない言葉が、私を悩ませる。
 とても優しい旦那に、家の畑で育った野菜を綺麗に洗って持って来てくれる旦那の両親に囲まれ幸せな生活を送っているのだか、私には誰にも言いたくない秘密がある。

 私が18歳の頃だった。
 見た目の良さに惹かれて付き合い始めた男性は3つ年上の金持ちの息子でした。
 その時代に流行ったディスコでたまたま隣の席になりちょっと強引な所に魅力を感じて付き合いだした。
 相手ペースの恋愛で、その男性の口癖は「俺が好きな間は別れられないと思え」だった。
 最初はそれでも、愛されているのからなのだ、と思っていた。
 しかし、その身勝手な行動はどんどんエスカレートしてきたのだ。私を部屋で待たせて他の女の人と浮気・・・
 しかも堂々と。「そんなに他の女がいいなら別れてよ!」と問い詰める私にあの人は言った。
「絶対に別れへん! お前は俺の持ち物と一緒や。別れるかどうかを決められるのは俺だけや!」
 本当に唖然だった。ビックリして言い返す言葉も見つからなかった。
 それからも、ドンドン彼の行動はひどくなり口答えすると殴られる日もあった。
 それよりも許せないのは、自分勝手なセックス・・・ただ自分を押し込むだけの思いやりのないセックス。
 まだ受け入れ準備の出来ていない私にただ、痛い思いをさせる。
「お願い。避妊はして」と訴えても聞く耳も持たなかった。いつも生理の予定日にはドキドキしていた。しかし、不安は的中することとなった。もう3ヶ月も生理が来ない・・・
 恐い・・・どうしよう・・ビクビクしながら病院に行った。やはり妊娠していた。
 彼との先は考えられなくなっていた私には産めない・・・
 苦しい・・悲しい・・どうしたらいいの・・赤ちゃんゴメンネ。本当にゴメンナサイ。
 こんないいニュースなのに喜んであげられなくて。ああ・・夢だったらいいのに。
 しかし前よりも大きく、そして少し痛い胸が赤ちゃんの存在を現実として突きつけてきました。
 思い切って彼に相談をしてみようと思いました。
 もしかしたら、これを機会に心を入れ替えてくれるかもしれない、と勝手に想像しながら・・・
 赤ちゃんの事を聞いた彼は、顔色一つ変えず言いました。
「お前の事は好きやけど、子供が出来たらお前にとって俺は2番目扱いになる。だからいらん」
 私の甘い想像は吹き飛ばされてしまいました。
 もう何も考えたくない・・子供の事はあきらめよう。そして私は中絶を決めた。
 このままでは私はダメになってしまう。別れなければ!
 そこで私は親友に相談をして、ある作戦を立てたのだ。これが私を苦しめる結果になるとは思いもしなかった。
 まずは親友に彼を誘い出してもらい、強引に彼の部屋に上がりこんでもらう。
 そして、歯医者に行くと言っておいた私が偶然、彼の部屋へ遊びに行き、親友が彼の部屋にいるのを発見する。
 あとは、泣きそうな声でこう言うのだ。まず友人に「私の彼氏の部屋から出て行って!」と言い、2人になる。
 そして最後のセリフは「親友まで手を出すなんて許せない! もうこれで終わりね」
 だが・・計画は思いもよらない方向へ進んでしまった。
 彼が友人を殴りたおし、「こいつが全部悪いんや! 俺は迷惑やったんや!」
「別れるっていうんなら監禁して殺したる!」と、私にも殴りかかってきました。
 涙が止まりませんでした。どうして・・どうして私がこんな事に!
 私が彼を騙すような計画をしたせいで、友人まで殴られ傷つけてしまいました。
 そして彼を思いもよらない状況に追い込み混乱させ、見たくない光景を見てしまいました。
 私は決意しました。もう後戻りは出来ない。
 全てを無くてもいい。私は新しい土地で新しい人生を生きる。
 そうして、私は電車に飛び乗り京都で住込みの夜のバイトを見つけ必死で働いた。
 慣れない客商売に戸惑いながらも私は強くなって行った。
 何年もかけて、生活も落ち着き、昼間の仕事を見つけ今の旦那と知り合いました。
 優しい言葉に誠実な行動。そして思いやりのあるセックス。
 結婚を決めるのに時間はかかりませんでした。とても幸せな日々でした。
 ただ、自分の勝手で小さな命を殺してしまった罪を私は忘れていたのだ。
 結婚して2年目になかなか赤ちゃんが出来ないと思い病院へいったら、不妊症であると言われた。
 これが私に与えられた罰なのだろう。そうして、私はなにも優しい旦那と孫の誕生を心待ちにしている旦那の両親に言い出せず、今も内緒で治療に通っています。
 新しく出来た友人達の可愛い赤ちゃんを見ながら、早く私も・・と思い続ける日々はまだ続きそうです。

◆「内緒の後悔」の感想


●表紙に戻る