Re: 全体の感想(2004.4月号) ( No.1 ) |
- 日時: 2004/06/25 15:29
- 名前: 赤川仁洋 <touzin@sannet.ne.jp>
- 参照: http://www.page.sannet.ne.jp/touzin/
- いまさらですが、わたしなりの簡単な感想を書かせていただきます。いつものように、作者の敬称は省略させていただきました。
「コーヒー・タイム」 蒼井 上鷹
編集後記にも書きましたが、物語の背景がうまくこしらえてあります。推理やひねりを活かすも殺すも、その事件や人間関係の背景がどれだけ丁寧に描かれているかにかかっています。今回の音階や歌のように、蒼井さんの作品にはいつも小道具がうまく使われていて感心します。
「晩夏」中里奈央
〈秋は、知らず知らずのうちにひっそりと忍び寄ってくる。まるで、音も立てずに歩き回る黒猫のようだ。〉この冒頭の一文は、「名文美術館」で紹介したいような素晴らしさですね。人間の心の複雑さが、丹念に書かれています。切り捨てられないだけに、人間関係は肉親の方が難しい……。
「ダイイングメッセージのつくり方」ナイトクローラー
ナンセンスコメディで楽しく読めました。こうした作品は、設定が突飛で馬鹿馬鹿しいほどおもしろいのですが、このアイデアは技ありです。会話のしゃれている。ただ、この長さであれば、何か推理的な要素がもうひとつ欲しいところ。そうすれば、合わせ技一本で「今月の一番星」になれたでしょうね。
「結局、アタシ」ユウカ
〈思い描いていたほど大人ではない。思い描いていたほど偉くもない。思い描いていたほど知識もない。思い描いていたほど優しさのかけらもない。〉、このフレーズには、年齢のギャップを越えて共感しました。今の自分の年齢と、子供の頃に描いたいたその年齢の人のイメージが一致している人は、ほとんどいないんじゃないでしょうか。散文詩のような文体で、リストカットやドラッグ等、刺激的な言葉が出てきますが、それをさほどショッキングに感じなくなってしまったのは、それだけ現代の病巣が深刻になっているからでしょうね。
「箸を使うように」条 文多
ちょっと説教臭いかな、という読後感は残るのですが、それを作者の生真面目さと好意的に受け取りました(^_^ゞ 表と裏の顔、大なり小なりだれでも使い分けているのでしょうが、年齢を重ねると、そうした使い分けが当たり前のようになってきます。そのぶん、面(つら)の皮も厚くなっているんでしょうね。
「ほんの言葉遊び」高瀬 年揮
作者のシニカルな視点が題材をスパスパと切り刻んで、心地よく読めました。内容も同感できるのですが、いかんせん、こうしたパラドックスは昔から議論されていて新鮮さは感じられません。独自の視点や切り口がほしいところです。
「聖地ラサ、天上の民の暮らし」ドルマ
素材が一級品ですよね。 素直に書かれた文章が、その素材を活かしています。こうしたエッセイは料理と一緒で、新鮮な素材をそのまま提供するのがいちばんなのだと、あらためて実感しました。
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