● NEXT (No.4)


「一人で列車に乗るなんて何年ぶりのことかしら。」
優子は車窓を流れていく田園風景を眺めながら、この列車の終着駅は一体どこだったのか、見る事を忘れていた事に気付いた。同じ車輌には優子のほかに乗客が何組かいた。大きな籠を座席に置いて、みかんを剥いている年配の女性が一人。少し年齢の離れているカップルが一組。50歳代後半かと思われる背広を着た男性が一人。セーラー服を着たおかっぱ頭の女の子が一人いる。優子は車窓に反射する自分の姿を悲しげに見つめた。
「あら、嫌だわ。いくら急いでるからって彼のサンダルを履いてきちゃった。」自分の足元を見つめて優子はつぶやく。
「だいたい、あいつがいけないのよ。浮気ばっかりして全然懲りないんだから。私が居なくなって少しは反省してもらわないと割に合わないわ。」
優子は今さっきの剛との修羅場を思い出す。優子と婚約者である剛は大学時代からの付き合いだ。大学3年生のときに友達と遊園地に出かけたときに、声をかけてきたのが剛だった。友達からは、ナンパされて付き合うなんて絶対に止めておいた方がいいよと反対されたけど、優子はどんな出会い方でも男と女の出会いには違いないと思ったから、友達の反対を押し切って剛と付き合い始めた。付き合って3ヶ月もしない内に剛は他の女と浮気をした。やっぱりナンパしてくるような男は浮気癖があるのか、もう一生浮気はしないと毎回誓うのに、何度も裏切られた。もういい加減、私も剛と別れようと思ったけど、半年前に剛は私にプロポーズをしたのだ。
「今まで何度も浮気をしたけど、もう一生浮気はしない。だから結婚しよう。」
それがプロポーズの言葉だった。結婚するって決まったら、さすがにあいつだって、もう浮気なんかはしないだろうと思っていた。着々と結婚式の準備が整ってきて、結婚式まで2ヶ月を切った頃、信じられない事に、あいつはまた浮気をした。それも私のよく知っている女だった。今回ばかりは私も本当に怒った。
今朝、結婚式の写真撮りの時間を早めてほしいと、式場から優子の自宅に電話があった。優子は剛の携帯に電話をかけようとしたが、直接アパートに行ってみる事にした。だいたいアパートに行く前は、電話をしてから行くのが慣例のようなものだったが、「もう結婚も決まっているし、今さら電話してから行く必要もないわよね。」と、優子は元気に自宅を出て行った。剛のアパートに着くと優子は呼び鈴を鳴らした。
「剛、居ないの?おかしいな・・。」アパートの駐車場には白の軽自動車が止まっている。剛は近くのコンビニに行く時でさえ車に乗っていくような奴だから、絶対にアパートには居るはずなんだけどな。優子はアパートの裏に回ってみた。レースのカーテンだけが掛かっていたが、何となくカーテンが動いたような気がした。
「あれ、やっぱり居るんじゃないの。」優子は、プロポーズされたときに貰った合鍵をハンドバッグから取り出す。玄関に回って合鍵を差し込もうとする。少しだけ罪悪感が生まれたが、「私と剛はもう結婚するんだから、これぐらいの事、別にいいわよね。」優子は自分にそう言い聞かせて、意を決して鍵を開けた。玄関には剛が立っていた。優子は、突然剛が出てきたものだから、心臓が止まるほど驚いた。
「ああ、びっくりした。ちょっと、脅かさないでよね。居るなら居るで、呼び鈴鳴らしたときに出てきてよ。」優子は剛を睨み付けた。「ああ、ごめん。ちょっと風邪を引いたみたいでさ。まくらを抱えて寝込んでたんだ。」剛は無精ひげを触りながら言った。優子は中に入ろうとパンプスを脱ごうとした。
「おい、ちょっと待てよ。中が散らかってるから、片付けるよ。」剛は慌てたような口調で優子を遮ろうとした。「もう、何言ってるの?風邪引いてるんでしょ?片付けくらい私がしてあげるわよ。」優子は笑いながら靴を脱いで、アパートの部屋の中まで入って行った。部屋の中は剛が言うほど散らかってなんかいなかった。むしろいつもより綺麗なくらいだ。「何よ、全然綺麗じゃないの。」その時、優子は剛の部屋に違和感を感じた。入って来る時も、いつもと違う甘い匂いを感じた。「あれ?」テーブルの上には優子と一緒に買ったペアーのマグカップが出ている。「剛、誰か来てるの?」優子は声の調子も変えずに、さりげなく聞いた。「何、言ってるんだよ。誰も来てないよ・・。」
「何でマグカップが2個もあるの?」灰皿には赤い口紅がついたメンソールの煙草まであった。「剛、いつからメンソールなんて吸ってるの?」優子の顔つきが変わった。まさか浮気してるなんて思いもしなかったが、決定的な証拠を見てしまっては追求せずにはいられない。「剛、誰か居るんでしょ?」優子は努めて冷静に訊ねたつもりだった。「誰も居ないって言ってんだろう。」剛は急に声を荒げた。「ちょっと、何で大声出すのよ。絶対に誰も居ないのね?」「ああ、絶対に誰も居ないよ。」優子はため息をつきながらトイレのドアを開けようとした。鍵が掛かっている。優子の疑いは確信に変わった。「剛、いい加減にしなさいよ。どこまで私を裏切れば気が済むの?」優子はトイレの中に向かって怒鳴った。「ちょっと、中に居るのは分かってるんだから、出てきなさいよ。」
優子の目からは涙が零れ落ちてきた。このトイレのドアが開いた瞬間、私の思い描く新婚生活が終わりを告げることは分かっていた。剛の方を見ると下を向いたまま困った顔をしている。何で下なんて向いてるのよ。私だって好きでこんな事をやってるわけじゃないのよ。私ばっかり、何でこんな目に会わなければならないの?結婚が決まった周りの友達のように、何で私には幸せが訪れないの?結婚が決まって、女にとって一番幸せな時期のはずなのに、一体なんだって言うのよ。悔しくって悔しくって涙が止まらない。
優子はトイレのドアが壊れるくらい、こぶしを握り締めて何度も何度もたたいた。手の甲から血が流れ出しても優子はたたく事を止めなかった。剛が後ろから優子に抱き付いてきた「優子、もういい加減にしろ。俺が悪かったから。」剛は優しい声で優子に言ったが、優子は何度も首を振り「何を言ってるのよ。謝って済む問題じゃないじゃない。このトイレの中に居るのは、誰なのよ?」優子は咳き込みながら、顔をくしゃくしゃにしてトイレのドアの前に座り込んだ。その時、トイレのドアがそっと開いた。優子は上を見上げた。中から出てきたのは私の高校時代からの友人の冴子だった。優子は冴子の顔を見て、一瞬時間が止まったように感じた。冴子は結婚式の受付を頼んだくらいの仲のいい友達だった。その友達が剛の浮気相手?
「冴子、どうしてなの?」冴子は何かを言いかけようとしたが、優子の表情があまりにも険しい顔になっていたから、何も言えなくなってしまったようだった。優子の頭の中は白く霧が掛かってきたようになり、あまりの消失感に思考が止まってしまったように思えた。記憶にある最後に目に映ったものは、台所にあった果物ナイフだった。殺してやろうと思った。二人とも殺して自分も死のうと思った。こんな人生しか自分にないのだとしたら、生きていたっていい事なんてあるわけないじゃない。
そこから全く記憶がない。気がついたらこの列車に乗っていた。どうやって駅まで来たのか、北に向かったのか南に向かったのかさえ思い出せない。「行き先なんて何処でもいいわ。剛から離れることが出来るなら・・。」優子は再び窓ガラスに映る自分を見た。髪が少し乱れている。何だかみっともない顔ね。振られた女って皆こんな顔になるのかしら。窓から目線をはずし前を向いたとき、誰かの視線を感じた。セーラー服の少女と目が合った。優子は軽く会釈をした。セーラー服の少女が立ち上がってゆっくりとこっちに歩いてくる。
「ちょっと横に座ってもいいですか?」優子は驚いたが、断る理由もないため「ええ、いいわよ。」と返事をした。
「お姉さんは、どうしてこの電車に乗ってるんですか?」
「そうねえ、ちょっと懲らしめてやりたい奴がいてね、一人旅なのよ。」
優子は、少女にはまだ分からないかもしれないと思ったが、軽くウインクをした。少女は丸い瞳を大きく見開いて信じられないとでも言ったように優子を見た。優子は、何でこんなに少女が驚くのか腑に落ちなかったが、「あなたは、学校帰りなの?」と聞いてみた。
「学校帰り?そう見えますか?」「ええ、今から学校に行くわけではないでしょ?」少女は首をかしげて「そうですか、何にも分からないでこの列車に乗ったんですね・・。」
そう言うと少女は立ち上がって優子に一礼をし、また自分の席に戻っていった。なんだか変な子ね。優子はまた窓の外に眼を向けた。遠くに大きな川が見える。優子は外を眺めながら車内に流れている妙な空気を感じた。さっきから、優子は視線を感じていた。何だか乗客みんなが自分を見ているような気がしてきた。みかんを剥いてるお婆ちゃんも、不倫してそうなカップルも皆がみんな、自分を見ているような気がしてきた。
その時、連結部のドアが開き車掌が入ってきた。優子は、いまどき車掌がいる列車も珍しいなと思った。車掌は「乗車券を拝見いたします。」とやけに丁寧なお辞儀を繰り返して、優子の側までやってきた。「お客様、乗車券を拝見いたします。」優子に向かって車掌は手を差し伸べた。「あれ、そう言えば乗車券なんて買ったかなあ。」洋服のポケットにも、どこにも乗車券は見当たらない。
「すみません。なんか、切符を買わないで列車に飛び乗った気がします。今から買わせてください。お幾らですか?」車掌は真顔になって「え?本当に乗車券をお持ちじゃないんですか。」と言った。「あ、はい。持ってないと思います。ごめんなさい、キセルをするつもりなんてなかったんですけど、急いでたものですから。」優子はあわてて謝った。周りの乗客がヒソヒソとこっちを向いて喋っている。ちょっと、私は払うって言ってるんだから、そんな目で見ないでよ。優子は皆の顔を睨みつけてやった。でも、誰も話を止めようとしない。優子はだんだんイライラしてきた。優子はすっと立ち上がり、カップルのところまで歩いて行った。
「ちょっと、あんたたち何なのよ?さっきから変な目で人のこと見て。なんか文句でもあるの?」カップルは不思議なものでも見るようにポカンと優子を眺めている。「あんた、生きてるんじゃないのか?」カップルの男性の方が優子に向かって言った。「は?何言ってるの?生きてるに決まってるでしょう。変な事、聞かないでよね。」優子は怒りながら男性に向かって言った。
「本当に生きてるの?」今度は女の方が優子に向かって言った。「もう、何?あなた達の目の前でこうして喋っているのに、私が死んでる訳がないじゃないの。おかしいわよ、あなた達。」「喋っているからって、生きてる事にはならないんですよ。現に俺たちは死んでるんだから。なあ。」40代後半といったところの男性が、20代前半にしか見えない女性に向かって優しく話しかけた。優子は、この人たちはきっと頭がおかしくなってしまったんだろうと思ったが、次に男性が喋りだした事を聞いて、頭が混乱してきた。
「僕たちは昨日の晩、一緒に海に身を投げたんです。僕は妻も子供もいるんですが、どうしてもこいつと一緒になりたくってね。」その男性は、横に居る若い女の肩をそっと抱いて「こいつと一緒になりたいって妻に話しても、離婚なんて絶対にしないって言うもんだから、それじゃ、二人でどこか誰も知らない土地に逃げようってことになったんです。でも、やっぱり世の中ってそんなに甘いものじゃなかったんですよ。妻に依頼されたものですけどって、私立探偵だか何だか知らないけど、僕たちの居場所を突き止めるんです。半年くらいこいつと一緒に、逃避行って言うんですかね、そんな事を繰り返すうちに疲れてきちゃって。昨日、山形の海沿いの町に旅館を取って温泉に入った後、こいつと二人で海に出ました。月がとっても明るい夜でした・・。」
男性は遠い過去のことでも話しているように語った。「こいつと一緒に海に入っていったんです。死に対する恐怖は不思議とありませんでした。次の世界があるのなら、そこで一緒になろうと言って手をつなぎながら海に沈みました。そして、今この電車に乗っているわけです。分かってくれましたか?」優子は、どうもこの男性が自分をだます為に作り話をしているわけではないと思ったが、じゃあ私は?私も死んだって言うの?冗談じゃないわよ。浮気されて、剛を殺したって言うならまだ分かるけど、私が死んだなんて、私は知らないもの。「ねえ、それじゃあ、ここに乗ってる人は皆死んでたりするの?」男性は厳かに答える。
「あのセーラー服の少女はイジメを苦にして自殺したって聞きました。あのお婆ちゃんは、老衰って聞いたし、あの中年男性は工場をやっていたが、不渡りを一回出しただけで工場が倒産してしまって、債権者に追われる生活が続いたそうです。あの人は、自殺して自分の保険金で責任を取れって、皆から言われて、本当に自殺したそうです。」
優子は身震いがした。「ねえ、それじゃ私も本当に死んでるの?ねえ、教えてよ。」優子はすがるように聞いた。涙が頬を伝わってくる。私がもし、死んだのなら、私の人生ってなんだったの?さっきだって、剛と冴子の浮気現場を見てボロボロだって言うのに。ちょっと、死んだのなら死んだって、何で誰も教えてくれないのよ。もう、いいわ。どうせ生きていたって、私の人生なんてたかが知れてるもんね。でも、何で私が死んだんだろう?いつどこで死んだんだろう?あの時、果物ナイフが見えたけど、あの後、私は記憶にはないけど自殺でもしたのかな。その時車掌がまた近づいてきた。
「お客様、切符はまだ見つからないですか?」「切符って、ああ、だって買った覚えはないもの。ある訳がないわ。それより、私、死んだんでしょう?この列車の終着駅は天国なの?それとも地獄なの?」「ええと、やはり切符をお持ちじゃないんですね。では、何でまた、この列車に乗っているんですか?」車掌も何だか困り果ててる様子だ。「そんな事は、あなたたちの方が専門分野なんでしょう?私が知ってるわけがないじゃない?」
「確かにこの列車は死者をあるところまでは届けますが・・。ちょっと、車掌室まで付いて来てくださいませんか?車掌室に下を見れる装置がありますから。」優子は「何処へでも付いて行くわよ。」と言って車掌に付いていった。車掌室に入るとモニターが6個くらいあって、いろんな風景が映し出されていた。
車掌は、名前と生年月日を聞き、打ち込む。「優子・・1976.1.23・・」「・・おかしいなあ、やっぱりエラーが出るんだよなあ。優子さん、あんた、まだ生きてるかもしれないよ。」車掌は優子の方を振り向いて言った。
「死んでようが、死んでいまいが私はどっちでもいいのよ。でも死んでるのなら、何で死んだのか知りたいわ。ねえ、その機械で、ちょこちょこっと私の死因を調べてよ。」
「この機械はそんな事に使う機械じゃありませんので、無理ですよ。」「そうなの?何で死んだかも分からないで、私は死んでいくのね。私って、本当にかわいそうだわ。」優子はまた、涙を流した。車掌は仕方なくモニターの下にあるキーボードをたたき始めた。
「優子さん、このモニターの映像が、あなたがこの列車に連れてこられる前のものです。」「本当に見られるの?」優子は涙をぬぐってモニターを凝視した。優子がトイレのドアをたたいている。ここで冴子が出てくるはずだ。冴子が出てくる。そうだ、この時、私が振り向いて果物ナイフを見たんだった。画面の優子は果物ナイフをつかんだ。あれ、こんなの私覚えてない。優子はそのナイフを冴子に衝きたてた。冴子はお腹を押さえている。優子はナイフを引き抜いて、それを剛に向けた。「イヤー、そんな事しないで!」
優子は絶叫した。自分の行動が信じられない。私は本当にあの後こんな行動を取ったのだろうか。画面では、優子が赤い目をしながら冴子を見下ろしている。口元には悪魔のような微笑が広がっていた。画面の優子はそのままアパートを出て行った。「ちょっと、これじゃ、私が殺人鬼になってるじゃない。冴子を殺したのが私だとして、どうして私が死んでるの、いや、死んでないにしても、この列車に私がいるのはどうしてなの?」
車掌はまたキーボードをたたき出す。アパートから優子が出てくる。返り血を浴びたのか水色のワンピースには黒い血飛沫らしき斑点が見える。優子はゆっくりと駅に向かう。大きな国道に出た。交差点では信号が赤に変わる。車の流れを見ながら優子はゆっくりと横断歩道を渡る。横から大型トラックが優子めがけて迫ってくる。画面の優子はトラックを発見したように見えたが、そのままトラックに跳ね飛ばされた。優子の体は弧を描くように飛んでいった。トラックの運転手はハンドルを急に切った為にガードレールに衝突した。映画のワンシーンを見てるような気がした。
「これが、本当にあの後の出来事なんですか?」優子の顔からは一切の表情が消えた。
「ええ、紛れもない事実です。しかし幸運な事に、あなたはこの事故で助かっています。」「幸運ってなんですか?私が助かったのが幸運だって言いたいんですか?じゃあ、私はまだ生きているんですね?」「はい、あの事故の時に何かの間違いがあって、こちら側の世界に来たようです。まだまだ、あなたの人生は残っていますよ。」車掌は優子にそう言った。
「あの、一つだけ教えてくれますか?剛と冴子はどうなったんですか?」「はい、彼らも幸運な事に助かりました。優子さんの人生はまだまだ残っています。次の停車場で降ろしますから、下の世界にお戻りなさい。いいですね。」優子は次の停車場で列車を降ろされた。降りた瞬間に優子は病院のベッドの上に横になっていることに気付く。
優子は、左手につけられている点滴をそっとはずした。優子は確かめるように体を動かしてみる。何とか体は動きそうだ。優子はそっとベッドを降りる。裸足で床に下りるとリノリウムの床が冷たく感じた。病室のドアをそっと開けると、警察官がパイプ椅子に座って居眠りをしていた。優子は床の感触を確かめるように、病院の廊下を音もなくゆっくり歩いていく。一階のロビーに剛と冴子がいた。二人とも優子には気付いていなかった。優子は階段の側に座り込み、二人の会話が聞こえるように息を潜めた。
「ねえ、優子は助かるの?」冴子が剛に寄り添うように言った。「医者が言うには、今日が峠だってさ。」「あの子、あのまま死んでしまわないかな。」「おい、何を言ってるんだよ。」剛が冴子をたしなめるように言った。「だって、あの子が死ねば私達は結婚できるじゃない?」「そんな簡単に言うなよ。」「でも、剛だってそう思うでしょ?」「そこまでは言ってないだろ。」「あの日だっていいチャンスだったのに、予定が狂ったわね。」「もう一回浮気現場を見ればあいつだって俺に愛想を尽かすと思ったのにな。」「どうするの?」「またチャンスを作るさ。」
・・剛と冴子は、優子の存在に気付きもせずそんな会話を繰り返した。優子は思い体を引きずるようにして裏口に向かった。外に出ると月明かりがやけにまぶしく感じた。優子はまっすぐに、国道に向かう。今は一体何時くらいだろうか?
国道は夜通し走るトラックばかりが目立つ。優子はそのまま車道に向かって歩き出す。横から大型トラックが近づく。大音量のクラクションが夜の街の静寂を破ろうと鳴り響いた。優子は目を閉じた。
今度こそ本当にあの列車に乗ろうと考えていた。

 

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