●NEXT(No.74)

 

知り得ぬモノには恐怖を感じるものである
地球上に霊が溢れ返り霊も身近になった時代
地球の科学は霊の仕組みの解明も進み
幽霊が恐いなどと云うのは過去の話になっていた
地球環境の変化のせいで生命の維持を科学力に頼る時代
霊達は地球上に転生の場を失い宇宙にその場を求めた

水中に溶岩が流れると
溶岩流の表面が水で急冷されるために
枕状に溶岩が積み重なって枕状溶岩となる
枕状溶岩があると云う事は
その星には水があると云う事になる
新天地を求め地球を飛び出した霊達は
23億年前、酸素を取り込む細菌が出現した頃の
地球に似た星に新たなる魂の行き場を求めた

その頃の地球は砂漠化が進んでいた
北緯23度26分の北回帰線と
南緯23度26分の南回帰線に挟まれた熱帯を起点に
乾いた砂の世界が広がっていったのである

地球上で目に見える物で一番多いのは砂である
もしも砂に生命があるのであれば
霊達も行き場は無くさなかったであろうに……

新たなる桃源郷を手にした霊達は
人工的に生命の進化を行った
地球より持ち出した数多くの生命の遺伝子を掛け合わせ
数多くの生命体を誕生させたのである
それは、さながらカンブリア大爆発の様でもあった
そして、その星に適応する生命を作り出す為に
競争の本能を植え付けて生き残ったモノに転生を試みた
その行きついた最終進化形態は
手足が細長く、目が大きく、口裂けで鼻は穴しかない
あなた達の想像する宇宙人そのものであった
その間、僅か数千年で辿り付いた進化であった


あなたは永くこの地球に地縛霊として居続けた
思考力の停滞していたあなたは、この永い時の中で
考えるのではなく感じることで色々な事を知っていった
あなたにとって知識など、何の役にも立たなかった
あなたは全てを感じることが出来る能力を持ち
この世界にある全ての意識を感じることが出来るからだ

感じようと思えば何時でも何処でも何者でも
過去とも未来とも近くとも遠くとも
何をも隔てる事もなく感じることが出来るのだ


そして、あなたは彼女を感じていた
彼女は意識の集合体となり
宇宙に飛び出した霊達の一部になっていた
遥か数百万光年の彼方の星の彼女を
23億年前の地球の様な星に居る彼女を
あなたに全てを、あなたの居場所を与えてくれた彼女を
遥か遠くの宇宙で感じていたのである


そして、あなたは彼女をこの地球にも感じていた


地球の大気に変化があり、生態系も大きく変わり
人間は生身では生きる事が出来なくなっていた
自らを機械化する事で生き延びる者もいれば
クローン技術に頼り臓器を移植して生き長らえる者もいた

しかし、それも長くは続かなかった

最初のクローン人間が反乱を起したのである
サンプルとして永遠に実験対象として
飼われ続けていたその首謀者は実験室から脱走して地下に潜り
クローンの人権を確立させるべく組織を結成したのである

単なる臓器として生かされていた彼等は
自分達も命ある人間であると
自分達も何人にも犯される事の無い人権を確立したい
そう願い『ダルタニアス』を結成し正義の為に戦ったのである
ダルタニアスに組するクローン達は
環境に適応する遺伝子実験で生まれた者も多く
人間達に比べて戦闘能力は格段に高い数値を誇っていた


そもそもクローン等の人道的な見識が崩れて行ったのは
胎盤を化粧品に使う事に抵抗感を感じなくなった頃からだった
命の尊さに対して感覚が麻痺する商品が横行する頃からだった
それは生命を扱う商売に対する
人々の抵抗感を無くす為の布石だったのである

クローン達は不毛な扱いを受けていた
家畜以下の扱いであった
移植される臓器以外は美容の為に使用されていた
もみくしゃに絞られて美容効果のあるエキスを抽出され
骨髄からは健康食品を生産されて
ある上流階級の家ではペットのエサにされていた



あなたはこれから起こる未来を知っている
今まであった過去も知っている
アカシックレコードと呼ばれる
私の知識と同化したしたあなたは全ての事を知っている

クローン達の抵抗は続いた
機械化された中流階級以下の人々はある事件により
クローン達に対する恐怖を植え付けられて
クローン解放の運動を起す者も現れた

その事件とは禁断の殺戮兵器である電磁波が
人混みの中で電車の中で使用された事であった
旧世界の暗黒兵器である携帯電話の使用であった
車内の人間はおろか走行する線路の
半径10kmに居た人間は全て死に絶えた

その事件の犯人は絶滅した生身の人間であったので
人々は絶滅したと信じられていた神の復活を意識したのである
これは神が人類に与えた天罰であると

人々は生身の人間が存在する事が不可能であると知っていた
従って生身の人間の存在に大いなる恐怖を感じたのである
これもクローン達の報復であるのかと恐怖したのである


あなたは知っていた
この星で彼女を感じる理由を
ダルタニアスの首謀者こそが彼女のクローンである事を
そして霊界でも彼女を感じていたのである

  彼女が生きていた頃、彼女の夢枕には
  もう一人の彼女がいつも立っていた
  もう一人の彼女を見ようとすると
  胸の辺りが深い暗闇で覆われていて
  その闇の奥深くに目を凝らすと更にもう一人の彼女がいた

暗闇に潜んでいた更にもう一人の彼女こそ
ダルタニアスの首謀者であった
彼女のクローンは双子だったのである
一人は臓器の摘出用に、もう一人は生きたサンプルとして
それぞれの用途に使用されていたのであった

臓器として使用された彼女のクローンは
あなたと同化して霊界に留まる道を選んだ
何故ならば自分の存在を認知している
自分の記憶を持っているあなたこそが
自分の居場所だと感じたからであった



そして遂に、運命は引き合う

ダルタニアスは地球を制圧しつつあった
中流階級以下の機械化人間が9割を占める世界で
蘇えった暗黒兵器を持ってすれば
機械化人間の絶滅などは造作もないのである

生き残った自らを機械化する事を拒んだ
上流階級のクローン技術によって生きた人々は
地球を脱出する計画を立てていた
正確に言えば以前から地球で生きる事が出来なくなった場合に
脱出する計画を立てていたのである
その星こそが、かつて霊達が移住した星
彼女が暮らしている星であったのである


人類は彼女の暮らす星を侵略しはじめた
霊界に干渉して距離と云う概念を取り払って
何万光年も先に行ける高度な移動手段を用いて

人類は又も彼女達を迫害しつつあった
彼女達は地球での居場所を奪った人類達に侵略されたのだ

ダルタニアスは地球を手中に収めた
しかし彼等は地球留まる事をしなかった
自分の利益の為には他の権利を奪う者を
のさばらす事はしなかったのである

ダルタニアスは人類を追った
銀河の果てまで平和の使者として
何処までも追い詰めた
しかし、人類は残骸になっていた
誰一人として生き残ってはいなかった


あなたは彼女を感じている
新たなる星で女王として人々を導いている彼女を
彼女は新たなる星の女王として君臨していた
生前、クローン技術で生かされていた彼女は
新たなる星での適応力で並ぶ者が存在しなかったからである

彼女は侵略者に屈したりはしなかった
徹底して抗戦する構えだった
侵略者の先鋒部隊はいとも簡単に壊滅する事が出来た
戦闘力に大きな開きがあったのだ
自らで生きる術を身に付けた者と
他の権利を迫害して他を食い物にしている者の力の差であった


彼女は後発部隊との戦闘に何かしらの違和感を感じていた
何故か戦う事で大切なモノを失う感覚を覚えていた
否、大切なモノなどと云う生温い感覚ではなく
全てを無くす感覚を覚えていたのだ

そして後発部隊は到来したのである

彼女は不安を覚えながらも戦った
理由はわからない
ただ自分を守る為に他を除く事が正しいと思うからだ

ダルタニアスも応戦した
戦うつもりは無かったが攻撃されれば敵意も生まれる
理由もわからずに戦った
ただ自分を守る為に他を除く事が正しいと思うからだ


あなたは知っている
この彼女の暮らす星で遺伝子操作によって生まれた生命を
霊達が環境に適応した生物に転生を試みる為に
競争の本能を植え付けていた事を

その生命達も理由もわからずに闘争していた事を

彼女達とダルタニアスは激しい戦闘を繰り広げていた
多くの者は戦う意味もわからず散っていった
そこに何の正義も無かった
ただ生き延びる事が勝利であるとしか考えていなかった


あなたは知っている
彼女とダルタニアスの首謀者は元々ひとつである事を
このふたつの人類を超えた人類の戦いは
実は自分自身との戦いである事を
そして、その戦いの果てに彼女等に得るモノが無い事を

あなたと同化した臓器摘出の為のもう一人の彼女は
この戦いを傍観する事が出来なかった
何故なら三人は元々は一人
誰かが欠ける事を酷く恐れていたからだ
誰かが欠ければ全てを無くすと思うから
即ち、強い消失感を覚えていたからだ


彼女達に戦う意味などなかった
恐いから戦うのであった
相手を知るのも相手に映る自分を知るのも
知らない事を見るのが恐いから

お互いをわかろうとはしないから恐いのである
お互いが、わからせる事はしたいのに
わかろうとはしないから恐いのである

人は一人では生きられないとか思っておきながら
相手に自分を求める
自分と違うモノを認められない
人を接してるつもりでも
そこに感じる自分と接してるだけ
結局は自分一人で生きていると感じている

他人が自分と同じわけないのにそう感じてる
自分自身ですら違う自分が居るというのに


この人類を超えた人類同士の決戦を
それこそハルマゲドンと云っても過言では無い戦いを
止める事が出来るのは自分自身
つまりは、臓器摘出用の彼女しかいなかったのである

もう一人の彼女は叫んだ
その叫びは声ではなく魂
彼女とダルタニアスの首謀者の心に響いたのであった


「違う自分も受け入れようよ
 違うモノも受け入れよう
 そして一つになろう
 元々私達は一つだったのだから」


そして三人はひとつになった
みっつの力をひとつに合せたのだ

未来に生きる時が来た

あなたは知っている
あなた達は元々ひとつであった事を
別々にされて戦わされている事を
この彼女達の様にそれぞれが進化する為に戦わされる事を
そして、その力が行き着いたら一つに戻され共鳴され
更なる進化に晒される事を

この彼女達の様に


彼女達は私の要求に答えた
私の設けた基準に達したのだ

魂の進化は達成されたのだ

 

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