●NEXT (No.9)


私はこの地に住みついた地縛霊らしいです
未来永劫、永遠にこの地から
離れられそうもないみたいです

良くはわかりませんが
どうやら、その様なのです

何時からここにいたのかも良く憶えていません
私の頭はマグナムでぶち抜いた様に破裂してしまったので
脳の一部がどこかに無くなってしまい
霊となった今も思考力、記憶力に支障があるみたいなのです

何故に私が地縛霊になってしまったかと言うと
電車に飛び込んで自殺をしたからなのです
その路線の電車に怨みを残して自殺したからなのです

この怨みは脳が吹き飛んでも消える事はありませんでした

私は自殺した路線の鉄道会社に勤務していたみたいです
ご近所で同じく地縛霊をしている方に教えて貰いました
霊となった私達には記憶を共有出来る能力があるので
時々、色々な記憶を見せて頂いています

この路線は人身事故が結構多く
死んだ人達が寂しい思いをしないので
居心地の良いここに土着したみたいなのです

中には霊同士で家族を持つ者もいました

新たに子供は産めないが
小さな子を道連れに無理心中を計り
親だけが生き残ったという事態もある様なので
そんな子を養子に迎えているみたいなのです

比較的に穏やかな霊生活を送っていたらしいです
私が復讐を成し遂げる時まではそうだったみたいなのです

そもそも何故に私がこの路線の電車に
怨みを持ったかといいますと
厄介払いと思われる様な仕事を押し付けられて
成果の中々上がらない私に対して
公然と社内いじめが行われたからなのだそうです

仕事を受けた丁度その頃は
日本全国での携帯電話の普及率が
とても急激に伸びた頃だった様です

そして電車内でのマナーについても
社会的に問題になっていたのです

車内通話による乗客同士のトラブルが絶えない為に
私に電車内での携帯電話使用禁止を徹底させろとの
業務命令が出たという話です

私は3年間この記憶を無くしていたのですが
兎に角この路線の電車が憎くて仕方なかったのです
ただひたすら訳もわからずに憎かったのです

それもそのはずです

「お前が死んでも携帯を掛けさせるな!
 もしも1年間で成果が現れない場合は本当に死んで
 化けて出てでも止めさせろ!」

こんな事を毎日毎日来る日も来る日も
少しアル中気味の上司に言われ続けてたみたいです

後からやって来た地縛霊の女性にそう教えられました
この女性は私の記憶を見付けて拾ってくれたのです
私の記憶を自分の記憶に融合して
時々ですが私に私の記憶を見せてくれるのです

情けない事に私は自分の記憶を
他の者に見せて貰わなければ
見る事も感じる事も出来ないのです
それは私の死因が脳へのダメージだったからなのです

その女性の場合は心臓停止が原因だったみたいです
彼女は医療機器を使用する日常を
送らざるを得ない病気だったみたいです
そして医療機器の誤作動によって死んでしまったのです
それは携帯電話の電源を切らない者共の殺人でした

彼女は私の手を自分の胸に当てて
「わたしの心臓動いていないの
 折角あなたが一生懸命に乗客の皆が
 携帯電話の電源を切るように頑張っていたのに」
こう言って悲そうに無念そうに顔を伏せました

彼女のこういった事情が私の記憶と同調して
見付けて拾う事が出来たのだと思ったのです

彼女の動いていない心臓とは対称的に
私の鼓動は破裂する程に
高まっていたと思います

カップにしたらDぐらいの均整の取れた胸に
私の手を引き寄せるのです
私の飛び散った脳の様な柔らかい感触も伝わってきます

普段は無表情な私は
とても興奮していたみたいです

女性に対するこういった感覚というのは
どうやら思考ではなく本能という事なんだと
私を見ていた者達から
嫉妬交じりに冷やかされていたそうです

特に受験による寝不足と重圧でノイローゼになり
線路に枕を持ち込んで寝転がり
眠ったまま死んだ中学生の男の子は
女性経験が無いという事もあってか
寝言でまで私にジェラシーを向けていたらしいです


私はこの女性の話を聞いて使命感に燃えました
なんとしてもマナー違反は無くさなくてはならないと

「車内での携帯電話の使用は止めてくれ、、、
 やめてくれ、、、
 やめろ、、、やめろ、、、、、」

私は車内で通話中の者に呼びかていたらしいです
すぐにこの事は話題になりました
車内で通話すると掛けた所に繋がらずに
携帯電話から変な声が聞こえるという事で
気持ち悪がって通話も多少は減ったとの事でした
しかしながら面白がって
わざわざ皆で通話する者達も絶えなかったとの事です

そして遂に犠牲者が出たのでした
あの女性と同じ様に死んだ
幼い生命がここにやって来たのです
怒髪天を突く程の怒りに我を忘れる程でした

折角あの女性が私の記憶を拾ってくれて
自分を取り戻しかけていたのですが
自分を消失させたとしても一矢報いたいと思ったのでした
そして復讐を企てたのでした
私の脳には思考する部分が無いと思っていたのですが
この復讐に関する事については驚く程に
頭が回っていたと当時を知る者は言います


復讐の時が遂に来ました
あの女性がやって来た1月23日それは決行されました

当時それは類を見る事が出来ない社会問題になりました
メディアでも見る事が無い日はなかったと言います
日本国内には留まらず
国際的にも大きな問題になったのです
原因を突き止める為に国連の視察団も足を運んでいました
各国の首脳も現場に足を運んでたという事です
そして日本国民に悔やみの言葉を掛けていったとの事です

私の復讐とはぎゅうぎゅう詰めの満員電車で
携帯電話の電源を切っていない者を
彼女と同じ様に殺したのでした
その時間に稼動していた全ての電車でそれは行われました

そして次の駅で停車した車内を見た乗車待ちの乗客は
そのあまりにも凄まじい光景に
ショックで心停止した者もいたとの事です
乗客の半分を超す者が死んでいたのです


携帯を持たない生存者は
メディアの取材でこう答えたらしいです

「突然皆が苦しみ出して断末魔の叫びが
 共鳴するみたいにあちこちで聞こえ
 一言で表現するならば正しく
 この世の地獄としか言えませんでした」

当時の首相はテロの疑いもあると言い
原因を突き止めるまでは
警察を鉄道や空港に重点的に配備すると発表したらしいです

しかしながら原因は一向に突き止める事は出来ずに
心霊ミステリーのTVに取り上げられる以外は
人々の記憶から遠のいて月日が流れて
次第に警備も緩んで来たという事です

被害にあった者の共通点が
携帯電話を所持していると主張する
心霊関係に精通した専門家がいた事もあり
かなり通話は減り電源も切る様になっていったみたいです


事件から3年の歳月が過ぎ
車内で通話する事に法的規制もかけられて
めっきりマナー違反の通話を見る事が出来なくなった頃
未来のテロリストは乗車しました
そのテロリストは私に通話を無くせと命令した上司でした

「誰も乗ってない、、、?
 この時間にこの電車あったっけ?
 ダイヤに乱れがあるとも聞いてないけど
 まぁいいや、俺はもう勤務時間外だし関係ないや」

上司は誰も乗っていない車内で
踏ん反り返っていました

暫く走った駅で沢山の乗客が乗って来ました
しかしその駅は見覚えのない駅でした
上司は不信に思い
携帯電話で会社に連絡を取ろうとしたみたいです

その瞬間その場にいた乗客全てが
断末魔の叫びと共にもがき苦しみ倒れ
目玉を飛び出させて鼻、口、耳と
穴という穴から血を流して死に絶えました


上司が乗った電車は距離ではなく
時間を進む電車だったみたいです

その時代は地球環境に大きな変化があって
地球の大気は人間の生命を維持する事が
出来なくなっていたのでした

その為人間は大気を清浄して呼吸する為の機器を
体内に組み込んで生きるしか術がありませんでした
精密機器であるが為に電磁波は禁物であったのです
ですので国際条約で電磁波は禁止されていました
電磁波兵器は核兵器や生物兵器と同じ扱いを
その時代では受けていたのです

アル中気味の上司は
史上最悪のテロリストとして処刑され
その当時では決して有り得ない
生身の人間である事が発覚して
研究材料として解剖されたらしいです


その後地縛霊の皆は私に習い
復讐を遂げる為に地縛霊を止めて
それぞれの怨みの的を目掛けて流れて行きました
それぞれ憑依霊になり復讐を遂げたらしいです

私がそうしたからしたみたいです
そして皆がするからしたみたいです


一方私はといいますと
例の彼女と一緒にリハビリをして
今では少しは思考力も記憶力も戻りつつあります

生きる気力も沸いて来ましたので
出来ればそろそろ彼女と一緒に転生でもして
何かに生まれ変わろうかと思うこの頃です

出来る事ならば、一緒に、、、

 

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