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蝶を集めるなど簡単だ。
女というものは何と単純な生き物だろう。

男はニヤリと笑い、手にした蝶を意味深に見つめた。
蝶の命は既になく、加工済みのそれは動く事も腐る事も無い。

私の誘いに乗った女達は蝶に姿を変えて永遠の美を得る。
女達はある意味愚かで、ある意味賢く、ある意味計算高い。
女達の望みは叶えられる。
永遠の美。
それが何に劣ろうか。
ましてや。老いて朽ちる人の死などに劣るはずがない。

男はうっとりとその羽に見惚れた。

私の望みは美に囲まれる事。
私の誘いに乗った女達に囲まれる事。
私の老いなど怖くは無い。
私の朽ちる先など恐ろしくは無い。
私の望みは美に囲まれる事。
私の誘いに乗った女達に囲まれる事。
事実、私は囲まれている。
女達の蝶を収めたケースに囲まれている。

男は満ち足りた笑みを浮かべ、部屋の中を見渡した。
「…あっ? これは何だ?」
男は、床に落ちた埃のようなモノに気付いた。
それが落ちた先。元凶を辿る男の指が、ケースの角を探りあてた。
「…ああっ?」
男の目が、視線の先にあるモノが信じられずに見開かれていく。
凍ったような動きが、怒りに溶けていくのにそう時間はかからなかった。
「何だコレはっ!」
男の視線の先では、働き者の蟻が蠢いていた。
「何だお前達は。何処から入ってきた。ああ、私のコレクションが台無しじゃないか。」
男は急いでケースを開けたが、そこには無残に羽を切り刻まれて美を失った蝶が有るだけだった。ただの残骸となった、ただの虫が転がっているだけだった。
「ああっ、なんて事をしてくれたんだ。ああ…。」
嘆く男の横を、働き者の蟻が行進する。
目的地へ向かって行進する。
一本の線を作って行進する。
行進する。
行進が、止まる。
止まる先から、蟻は蟻の残骸となって転がっていく。
ただの蝶は蟻の餌だが、加工済みの蝶は蟻の毒だった。
嘆く男の傍らで、長い列をなしたまま。
求める先に辿り付けない蟻達は、命を失い転がった。

Copyright(c): Reo 著作:れお

◆「採集家」の感想

*れおさんの作品集文華別館 に収録されています。 《文華堂店主》


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