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 世界の最長寿国・日本の平均寿命が、また記録を更新したそうだ。女性が84.62歳、男性が77.64歳。これは、自然災害や交通事故、自殺者などの数も含めたトータルな平均だから、どうにか普通に暮らしていれば、もっと長生きできることになる。
 国により統計の作成期間が異なるので、厳密な比較は困難だが、他の国の数字をいくつか上げてみようか。同じアジアでは、インド(作成基礎期間1995-2000年)が女性60.9歳、男性59.7歳で、かなり低い数字になっている。アフリカのナイジェリア(作成基礎期間1995-2000年)は、女性51.5歳で男性48.7歳。日本でも江戸時代は、人生50年と言われていた。もしナイジェリアに生まれていたとしたら、あと生きられるのは……。わたしは煩悩だらけの人間なので、まだまだ自分の人生に未練がある。つくづく日本に生まれて良かったと思う。
 女性の平均寿命が男性よりも長いのは世界的な傾向で、これはもはや常識といってもいい。女性の方が、肉体的にも精神的にもタフなのです。ロシア(作成基礎期間1995年)では女性71.7歳、男性58.3歳と、なんと10歳以上の差がついてしまっている。
 しかし、平均寿命はあくまでトータルな数字にすぎない。日本人であれば誰でも長生きできるわけではない。厚生労働省によると、昨年9月現在、百歳以上の方は13,036人。性別の内訳は女性10,878人、男性2,058人と、当然ながらこちらも圧倒的に女性上位だ。
 それでは、どんな人が百歳以上も生きているのだろうか。いわば、長寿の秘密である。新聞で、興味深い記事を見つけた。東京のフリーライター、荒川典子さんの「百歳の食卓」(廣済堂出版)という本の紹介で、百歳以上の元気なお年寄り11人を各地に取材して、その生活を探求したものだという。
 意外だったのは食事で、野菜や玄米などの自然食が中心だという先入観があったのだが、全体的に脂っこいものが好きだという傾向が出ている。最高齢の107歳の男性は、ピラフにピザ、チーズ、チョコレートと何でも口にしていた。あまり偏食では困るが、要は好きなものをおいしく食べるということか。まあ、元気だからそれだけ食べられるということもいえるのだが。
 おもしろかったのは、性格についての考察だ。百歳以上のお年寄りだと穏やかなイメージだが、どちらかというとわがままでマイペース、きつい感じの人が多かった。でも一方で、どこか憎めず家族に大切にされているのも印象に残ったという。やはり、精神的なストレスは長寿の大敵か。
 医学的な研究も進んでいる。慶応大学医学部の研究グループは、1992年から東京の百歳以上の約700人を調査している。学歴が高い人が多いという傾向はあるが、病歴パターンで見ると、大した病気もせずにきた人から病弱で入退院を繰り返した人まで様々。丈夫な人ばかりが長寿ではないということだ。ただし、性格は周囲に同調するよりも自分を曲げずに押し通すタイプが多いというから、荒川典子さんの考察と一致している。
 さて、人間はいったい何歳まで生きられるのか。戦後、戸籍上確認された日本の最長寿記録は116歳で、この辺りが限界というのが定説になっている。でも、医学の進歩でこの記録はまだまだ伸びる? 反対に、ファーストフートやジャンクフードなどの影響で、これから先、寿命は縮むという説もある。
 とにかく、当面は日本の高齢化はどんどん加速される。2000年の国勢調査の分析結果によると、65歳以上の老年人口は2,227万人で、15歳未満の1,845万人の年少人口を初めて逆転したという。団塊の世代と呼ばれる今の50代半ばから40代後半の人たちが、さらに老齢人口に加わると、これはもう史上空前の高齢者国家が誕生してしまう。
 年金制度の崩壊、若者の税負担の増加、医療費の増大等々、高齢化の未来には暗い話ばかりだ。しかし、これはもう避けようがない事実なのである。発想を転換して、気持だけでも前向きでありたいものだ。老人が多いということは、それだけ社会が老人に関心を抱く、いや、関心を抱かざるを得なくなるということだ。数はパワーだ。老人をターゲットにした製品や文化が隆盛する。老人中心の成熟した社会が訪れる。物質的な欲望よりも、精神的な充足を求める社会が……。
 若い人には申し訳ないが、老人にとっては、お仲間の多い高齢化社会は、そんなに悪い世界ではないような気がする。もちろん、これはわたしが老人になったときの自分本位な夢想である。ちょっとわがままで自分勝手かな? だとしたら、わたしも百歳以上、長生きできるかもしれない。


Copyright(c): Hisae Ishii 著作:石井 久恵

◆「老人の時代」の感想

*佐鳥信吾さんの「数値フェチの独り言」が文華別館に収録されています。そちらの方もお楽しみください。


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