Re: 全体の感想(2003.10月号) ( No.1 ) |
- 日時: 2003/10/16 13:42
- 名前: 舘 里々子
- >iuaoiioさんの『スキンディープ』の感想。
シンディ・シャーマンの写真の分析のくだりを読んでいて、思い出したことがあります。 それは、アニメ『ドラえもん』のある一話に出てくる小道具、絵描きペン(正しい名前は忘れました)です。 話を要約すると、絵のへたっぴなのび太君は例の如く皆に馬鹿にされ、ドラえもんに泣きついて小道具を授かります。それで風景を写実して、見せびらかしに行くわけですけど、絵の才能がないことはすでに知れ渡っているうえ、出来上がったものはただ写実しているだけの代物。結局、のび太君の絵は、ジャイアン達に「こんなの写真じゃん」と言って破り捨てられてしまうんです。 この話を見たとき、私は芸術性を計ることの難しさを、垣間見たような気持ちになったものでした。 iuaoiioさんが言わんとしていることとは食い違うかも知れませんが、風景と写真と、それを写し取った絵と、各々の違いというものについて深く考えさせられました。 <模型>と<本物>との違いもまた然り、なのでしょうね。 「〈模型〉は〈本物〉ではないが故に〈本物〉の持っていたロマンを損なうことなく宿している、ある意味〈本物〉以上なのです。」この言葉に、ドキリとさせられました。 面白かったです。
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Re: 全体の感想(2003.10月号) ( No.2 ) |
- 日時: 2003/10/17 00:56
- 名前: iuaoiio
- 舘 里々子さん、こんばんは。
読んで下さりありがとうございます。
>「〈模型〉は〈本物〉ではないが故に〈本物〉の持っていたロマンを損なうことなく宿している、ある意味〈本物〉以上なのです。」この言葉に、ドキリとさせられました。
欲張りな僕は初めはリドリースコットの『ブレードランナー』にまで言及しようかと思っていたんですよ。あの作品でも人間のレプリカント達が登場し、そして最後には極めて人間的な「憐れみ」を表現するわけですから。 でも、やめました。収拾つかなくなりそうで 。
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Re: 全体の感想(2003.10月号) ( No.3 ) |
- 日時: 2003/10/17 19:04
- 名前: pps <pps@jcom.home.ne.jp>
- こんにちわ、ppsです。
掌編と短編の作品の感想を書きます。(個別スレッドが立っている作品は除いています) 雑念が混じるとよくないので他の批評は見ないようにしました。 客観的に評価することを心掛けました。今後の活動の一助となれば幸いです。
「オレオレ!」 読みやすいですし、死者と交信できる一種のテレパシーというアイディアはちょっと興味をそそられたのですが、最後はなんだかよく分からないうちに終わってしまったという感覚でした。主人公のこの超能力にまつわるある一つのエピソードを書き下ろしただけで、小説作品としては娯楽としても風刺としても独立していない印象があります。ラストになにか飛躍が欲しいと思いました。
「静かな楽しみ」 作品自体にも静かな良さが漂っていますね。 文章に少し不備があるようですのでいくつか指摘しておきます。「祖父はなぜ千夏が怒っているのか分からないようだったが、千夏はお祖父ちゃん子だった。」は読点の前後の文がかみ合っていません。「祖父はやんわりと拒否した」は「やんわり」と「拒否」が矛盾しています。また、冒頭一文もややおかしいようです。
「怪奇エレベ−タ−」 やはり少しひねりが足りないと思います。いまひとつすっきりしない読後感です。 マンションにでる幽霊やその体験レポートといった設定もいささか平凡すぎるようですので、なにか工夫を加えてみてはどうでしょう。プロットが大胆に変わってしまうくらいにねじってもいいくらいだと思います。
「まめはまめまめしく」 いひゃあ怖い(^^; 最後の段落(のまとまり)で一変していますが、この段落は冗長になってしまっているか、あるいは作風に合致しないものと感じました。「それにしても――」の意味がちょっとよく分かりませんでした。 かなり難渋さや不可解さを覚えながら読み進めてしまったので、ストーリをちゃんと汲み取れていないかもしれません。
「どうして彼女を殺すのかしら?」 主題が持つエッセンスが面白いですし、作中のセリフを通してもそれはよく利いてきた、響いてきたと覚えています。ストーリ進行にも波が用意されていて読ませるのが上手です。 結論がぼやかされているのは致し方ないのかもしれませんが、この種のおもむきの括り方は廃れてしまっていると思います。同じぼやかすにしても、なにかもっとほかに効果的なやり方があったのではないでしょうか。
「ラストダンス」 人間臭さが描けてますね……。夫婦生活のくだくだしい叙述にはちょっとげんなりしてしまいましたが、ラストでうまく纏められて報われました。 夫婦喧嘩レーシング(?)のシーンには少し価値を感じました。高速というスリルに乗じた緊迫感のようなものがあります。このシーンをもっと派手にしたり脚色したりしたコミカルタッチの作品があっても面白いかもしれません。 この作品は作風がよく分からないので読み方に困ると思います。ミステリで始まって、ドタバタで経過して、最後はドラマチック――という、全体的にはぎこちない印象がありました。
「アンドロギュヌスの夢」 うーん、読み応えがありました。 部分部分は映画や芸術などへの造詣の深さや筆力のたしからしさにうならせられるところも多いのですが、それにしてもなぜ筆者はこんなにも一途にことの真相を追い続けているのかがよく分かりません。そのためか、読者である私もなぜ読み続けているのかが途中でよく分からなくなってしまいました。私は映画関係には暗くて、内容についてはあまり興味を持てなかったので、先を読みたいという引っ張られる感じがなかったのが残念です。
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ppsさんの感想に ( No.4 ) |
- 日時: 2003/10/19 17:32
- 名前: ますゐ英人
- 参照: http://wing.zero.ad.jp/hmasui/
- ppsさん、「まめはまめまめしく」
の感想ありがとうございます! 身の回りのありふれたもので不可解でこわいものを書いてみたかったのですが、 (豆を見たら思い出してしまうような…) なかなかむずかしいものです(汗) 最後の段落は、 語り手が死ぬので、語り自体の意味・位置を示すのに必要かな、と考えました。 「それにしても…」にはあるイメージがあったのですが、 おっしゃるとおり、説明不足です。 また、教えてください!
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Re: 全体の感想(2003.10月号) ( No.5 ) |
- 日時: 2003/10/20 01:01
- 名前: シオコ
- シオコです。
蒼井上鷹氏の「オレオレ!」、面白かったです。 テンポもセリフも展開もとても良かったです。 それだけに、やはり最後に「作品としての仕上げ」がなかったのが残念でした。
pps氏の「猫の井戸」 怖くて切なかったです。 南極で主人を待ち続けたり、海を泳いで恋人犬に逢いに行ったり、老夫婦の生き甲斐の犬が死んだりする映画などの予告編がテレビで紹介されると、チャンネルを変えてしまう小心者の私です。 子猫と幼い女の子という、か弱い存在、暗くて冷たい井戸の底にひとりという設定、私にはいたたまれない素材でしたが、作品としてひとつの世界ができあがっているという印象を受けました。
ナイトクローラー氏の「どうして彼女を殺すのかしら?」 氏のトリッキーな作品はぜったい三人称が合っているとひそかに思っているのですが。。。 この作品もそのように思いました。
大暗室氏の「アンドロギュヌスの夢」 筆者が幻の映画のビデオテープを手に入れるまでは、謎解きの勢いでぐいぐい読み進んでいきました。 特に、上映作品の内容が文章から、そのインパクトある光景がありありと想像できたのには脱帽いたしました。 ただ、筆者と「トーナメント」の関わりに納得のいく説明があれば、読者はもっと満足して読み終えることができたと思います。
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ppsさまの感想に ( No.6 ) |
- 日時: 2003/10/22 08:56
- 名前: かば <kaba@jsdi.or.jp>
- 参照: http://www.jsdi.or.jp/~kaba/
- ppsさま
「静かな楽しみ」の感想ありがとうございます。 ご指摘していただいた3点はよく反省して、今後の制作に活用したいと思います。
でも、「やんわりと拒否」はそんなに矛盾していますでしょうか。 私は露骨に拒否できない場合、「やんわりと(遠回しに)拒否する」という表現を使います。 「拒否」は「拒んで受け入れないこと」であり、そこに「きっぱりと」とか 「はっきりと」といった意味合いまでは含まれていないと思うのですが。
ppsさま以外の方も「やんわりと拒否」という表現についてご意見を聞かせてくださると幸いです。
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Re: 全体の感想(2003.10月号) ( No.7 ) |
- 日時: 2003/10/22 14:16
- 名前: ぺん
- かばさんの質問に関して書こうと思ったのですが、まだ作品を読んでいないのでなんともいえません。読んでから改めて書きますね。といっても、ものすごく個人的なことしか書けないと思いますが。
文華さんの作品はいつも興味深く読んでいますが、全部を読み切った事がなく、今回もランダムに読んでいますのでその感想を書きます。
「オレオレ!」 という題を見たとき、もうそれだけで笑ってしまいました(笑 タイトルにずばりを持ってくる蒼井さんはすごいなぁと思い、これをどう料理するんだろうとわくわくしながら読みました。...おもしろかったです!それぞれの人物に味があって、とても人間くさいなぁと思いました。終わり方も好きでした。
「どうして彼女を殺すのかしら?」 どうしてなんでしょうねぇ? 二転三転するお話にすっかり時間を忘れて読み切ってしまいました。胸が大きいとか小さいとかで友達を殺すなんてというところらあたりは、ぐさぐさと刺激を受けてしまいました(笑 女性の細かな心理がよく描かれていると思いました。で、どうしてなんでしょうねぇ? それは自分で考えてみることにします!
「猫の井戸」 感想の前に、ppsさん、掲示板では「一緒に書きましょう」みたいなことを書いてしまって失礼しました。こんな素敵な世界を描かれる方だと知らずに...。 モノクロの映画を見ているような気分でした。ある場所に立ったとき、何かしら心が動かされるということがあって、そんな時の気持ちがまさにこのお話に書かれてある世界だなと。記憶の底の井戸を覗き込んでしまいました(いや、落ちたかも)猫のことを丁寧に書かれているのは猫の好きな方だからと想像してましたら、やっぱり(笑 佐藤君、かわいい!
条文多さんのエッセイ 「卒業するの?」という言葉が、卒業して随分経っている私にも意味深に聞こえてきました。生きる間にはたくさんの卒業があって、学校だけのものではないなぁと考えさせられた次第です。卒業してケリをつけたもの、まだ猶予の中で泳いでいること、自分の中にもいろんな気持ちがあるなぁと思いました。プールの話もおもしろかったです。
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掌編作品 他の感想 ( No.8 ) |
- 日時: 2003/10/22 16:51
- 名前: 赤川仁洋 <touzin@sannet.ne.jp>
- ぺんさん、感想ありがとうございます。
遅くなりましたが、今月号の作品の感想を書かせていただきます。 今月は作品が多いので、二回にわけて書き込みます。 いつものように、敬称は省かせていただきます。
「名文美術館・スキンディープ」iuaoiio
個々のアイデンティティとは何だろうと、あらためて考えさせられてしまいました。本物の模型として、ダッチワイフを登場させたところが象徴的。誰しも、ダッチワイフ的な役割を演じている(他者の要求を受け入れている)部分はありますからね。死によってのアイデンティティの喪失は、開放でもあるんでしょうか。
「戦国公園」石井 久恵 今回はとくに、読み応えがありましたね。ようやく、エンディングが見えてきたという感じです。 「……過ぎ去れば何も残らない……歴史はだれのものでもない……」 この五竜の言葉が、この作品のテーマなのでしょうね。次号の最終回が楽しみです。
「オレオレ!」蒼井 上鷹
時節ネタをうまく盛り込んだトリッキーな作品は、もはや蒼井さんの得意技ですね。軽妙にまとめた完成品だと思いますが、商品として評価すると、やはり全体にパワー不足。ストーリーをヒネることも大切ですが、押し出す力強さがもっとほしいところ。それだけ、作者への要求が高くなっているんでしょうね。
「静かな楽しみ」かば
好感が持てる作品ですが、もっと掘り下げることができたテーマだと思います。電車の音だけで終わってしまったのはもったいない。どうせなら、匂いも加えたらどうでしょう?
「猫の井戸」pps
猫の視点を中心に書いた作品ですが、人間的な観点や感情をできるだけ排除することで、独特の雰囲気を出すことに成功しています。恐怖を直接、表現しないで、事実を淡々と描写することで、じわじわと冷気が這い上がってくるような感じ。うまいと思いました。
「怪奇エレベーター」壱岐 賢也
これは、掲示板の課題テーマから喚起された作品。ビデオカメラという小道具がうまく使われていて、映像的に読者に迫ってきます。最後のシーンは迫力がありました。確かに類型的ではありますが、それだけ普遍的な題材なのだ思います。
「まめはまめまめしく」ますゐ 英人
まめ病という荒唐無稽の話を書いて、最初は笑い話かなと思って読んでいたのですが、次第にそのあやかしの世界に引き入れられてしまいました。エロチックな隠し味が、媚薬のように効いています。最後の場面は評価がわかれるでしょうが、わたしはこの文体で一作、読ませていただきたいと思いました。
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Re: 全体の感想(2003.10月号) ( No.9 ) |
- 日時: 2003/10/22 20:57
- 名前: ぺん
- かばさん、こんばんは。
いいお話でした。「静かな楽しみ」明日早速、わが家でも使うことにします。 「やんわりと拒否する」ですが、かばさんの書き込みにある「遠回しに拒否する」というほうがいいのかもしれないと思いました。拒否という漢字が「拒」「否」とどちらも強い視覚を与えるので、やんわりとという形容詞と並べると、極端な印象を受けるように思います。やんわりと断る、というくらいだとどうでしょう。各々の感じ方もあるので、これが絶対にいいと言う事はできませんが、読んで下さる方の違和感が少ないほうがよりいいかなぁと思います。 なんて偉そうに書いてますが、実際私もppsさんの感想を読まなければ、気がつかずに読み進めていたことと思います。
「スキンディープ」 深い思索を促される文章でした。読んでいて、8月号文華に寄せられてた中里奈央さんの「影の色」を思い出しました。中里さんはラストを人形が赤く光っていると書かれていて、その色の鮮明さが影の強さを物語っていると思います。影はシャーマンの死体の瞳でしょうか。不思議な充足感は、人間が遠く離れてきたロマンが、そこにあるからなのかもしれません。影に添う人にだけわかるロマンが。
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Re: 全体の感想(2003.10月号) ( No.10 ) |
- 日時: 2003/10/23 00:18
- 名前: 条文多 <kaibutsukun_00@yahoo.co.jp>
- ぺんさま
拙文「卒業するの?」への感想、ありがとうございました。
やはり感想を頂けるというのは嬉しいものですね。今回のエッセイは、来春に大学卒業を控えている今の心境を正直に綴ったものですが、将来自分がこのエッセイを読み返した時にどのような感想を持つのか、すごくすごく、楽しみです。「くそう……この頃からおれの考え方は根本的に間違っていたんだ」なんて思っていなければいいのですが……。こればっかりは、時間が経ってみないとわかりませんね。
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