亜木冬彦&赤川仁洋 作品集表紙に戻る

前回次回

 突然、テレビの取材を受けた。地元局のRCCテレビの「イマなま」という番組。平日の午後3時から2時間弱、放映されている。 取材を受けたのは、木曜日の名物企画で「街の凄い人」というコーナー。県内の街角をレポートしながら、地元の人に地域の『凄い人』を教えてもらって紹介するという内容だ。
 土曜日の夕暮れ時、店の自動扉が開いたので振り返ると、「イマなま」という看板を手にした女性が立っていた。顔に見覚えがあった。以前にうちの常連さんが同じコーナーに出演したときに、録画して見た記憶がある。タレントの人かと思ったが、後日、その番組のファンだという人から、RCCの女性アナウンサーだということを教えてもらった。
 レポーター役の女性と、三十台の半ばぐらいの女性プロデューサー、カメラマン、それにアシスタントだと思われる若い男性、4人組のクルーだった。内心、他に入る店もないんだろうなと同情した。過疎地のシャッター商店街で、さらに今日は土曜日なので、開けている店が少ないのだ。
 店のことについてあれこれと質問された後で、「ここのお宝を教えてください」といきなり言われた。高額な古本はあるが、そんなものを紹介しても映像的にはおもしろくないだろう……、そこで思いついたのが文豪たちの直筆原稿のレプリカだ。
 とくに川端康成のものは、原稿用紙から忠実に再現されていて、本物と見分けがつかない出来栄え。いつもなら、レプリカと言わないで開陳してびっくりさせるのだが、カメラを前にして気が急いたのか、事前にレプリカだと説明したのが残念だ。NGが許されるのなら、もう一度、やり直したいところ(苦笑)。
 続いて、この地域の凄い人を紹介してくれというので、思いつく名前をいくつか挙げたが、すでに取材したことがある人ばかり。困って取りだしたのが、ミニコミ誌の「県北どらくろあ」のバックナンバーで、パラパラとめくりながら過去に登場してもらった人たちの記事を提示した。
「庄原こどもミュージカル……」、女性プロデューサーがようやく関心を示した。これだとわたしも内心、喝采を叫んでいた。毎年10月に開催されている恒例のイベントで、子供の情操教育を目的にミレニアムの2000年にスタート、今年で18回目になる。ちょうど練習も仕上げ段階に入っているはずだ。その記事が載っている号のどらくろあを進呈して、ぜひテレビで紹介してあげてくださいとお願いした。
 これでお役ごめんで、撮影スタッフは引き上げようとしたのだが、どら書房には誇るべきお宝がまだあることを思い出した。「漫画ルームがあるんですよ」、その一言で、撮影が続行された。自分の蔵書も含めて、4年間で集まった漫画が周囲の棚を埋めている。無料で開放していることに興味を引かれたようで、念入りに撮影していた。最後は、路上のロケ車から建物の外観を撮影してようやく取材は終了した。
 しかし、取材を受けるのには最悪のタイミングだった。その日は9月1日で、ミニコミ誌の「県北どらくろあ」を発行したばかり。編集作業にかまけて古本屋の仕事を怠けていたので、あちこちに古本の山ができている。身だしなみに気を使う余裕もないので、ここしばらく髭も剃っていない。いつもへろへろの状態でどうにか月刊の締切りを守っている。まあ、そうした店内の乱雑さも、古本屋らしいと言えるかな(苦笑)。
 2週間足らず後の13日(木)の午後に、その場面が放映された。見ていて恥ずかしくなるほど、自分の姿や声に違和感がある。緊張しているのだろう、照れた笑いを浮かべている自分の軽薄さがなんだか情けない。しかし、映像はしっかりと編集されていて、どら書房や「県北どらくろあ」が過不足なく紹介されていた。
 そして、本当に取材してくれたかどうか不安だった「庄原こどもミュージカル」の紹介だが、ちゃんと練習場所に行って、きっちり撮影してもらったようだ。突然のレポーターの出現に、子供たちが驚いた表情を浮かべている。責任者には撮影の許可を事前に得ているのかもしれないが、子供たちには何も知らせないでほしいと要望していたのか。突然の訪問というサプライズが、この企画の狙いなのだろう。
 インタビューを受ける子供たちのキラキラした目が印象的だった。今年の舞台は「不思議の国のアリス」。あなたはどんな役をやるの? そう訊かれた小さな女の子が「いもむし」と大きな声で答えたのには感心した。判官贔屓なのだろうが、主役のアリス役の子より堂々としているように見えた。
 最後に、代表である児玉先生(児玉医院院長)が、レポーターから『凄い人』の認定である王冠を被せてもらってコーナーは終了、公演の日時や前売り券の告知もしてもらって、至せり尽くせりの内容で大満足。こうして目に見える形でどらくろあが役になったのは初めてのことで、わたしも元気をもらった。
 さあ、これから来月号の発行に向けて、へろへろになるまで頑張りますか。毎度のことだが、締め切りに追われて突貫工事で原稿を書いています。
※いまから10日も前に書いたもので、ようやくミニコミ誌の発行のメドが立って、「文華」をアップすることができました。今回もきつかった……、本当にへろへろです(苦笑)。

Copyright(c):Masahiro Akagawa 著作:赤川 仁洋


◆ 「風に吹かれて(110)」の感想 (掲示板)
合い言葉は「ゆうやけ」

*亜木冬彦&赤川仁洋の作品集が文華別館に収録されています。


亜木冬彦&赤川仁洋 作品集表紙に戻る