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 隣町の三次中央病院で、MRI検査を受けて来た。入院着のような上下のゆったりしたウエアに着替えて、台の上に仰向けに横たわった。検査員の人に「防音のために着けていただきます」と、ヘッドフォンを装着させられた。
「背中が熱くなりますから、我慢ができないようなら手元のボタンを押してください」
 指示の声はかろうじて聞こえるのだが、耳の悪い老人はどうするのだろうと、余計なことを考えた。 想像していたものとは違ってかなり小さいドームの中に移動した。雑誌やネットの記事で見たときは、もっと大きな円筒のドームだったように記憶しているが、技術が進歩してコンパクト化されたのか、それとも性能が劣る廉価品だからしょぼいのか。
 全身が円筒のトンネルの中に閉じ込められると、周囲がすぐに壁なので、圧迫感がハンパない。連想したのは棺桶の中……、死人が生き返るというシチュエーションはスリラーの古典だが、その恐怖が実感できた。閉所恐怖症の人には耐えられないだろう。
 すぐに不規則な機械音が聞こえてきたが、ヘッドフォンをしていても不快な轟音である。どうせなら、気分の紛れる楽しい音楽でも流してくれたらいいのにと思った。後日、音楽を流してくれる病院もあるということを聞いて、病院によって対応が違うのだということを知った。しかし、 自分で音が選べるのならいいが、好きでもない音楽を延々と聴かされるのも困る。ドームに入っていたのは30分弱であるが、圧迫感がひどく、外に出た時は冷汗をかなりかいていた。
 診察時に検査結果の画像を見せてもらった。レントゲンと同じ白黒のフィルムだが、細かい部分まで鮮明に映っている。
「これが脊椎で、中に神経が通っています。神経を保護しているのが髄液で、白く映っているのがそうです」
 腰椎がすべり出てしまっている箇所の白い部分が、まったく映っていない。そこで脊椎が湾曲して炎症を起こした箇所が盛り上がってしまったので、髄液の部分がなくなってしまったのだ。電線を連想した。保護しているビニールが擦切れて、中を通 っている銅線が剥き出しになってしまい、電気が漏れてパチパチ火花を散らしている。太ももから足の裏まで、チリチリする痛みや痺れに火花のイメージを重ねたのだ。
 ドクターの説明で意外だったのは、腰椎のすべりは長年の酷使でちょっとずつズレたのだろうという推測。体調の悪い時に本の回収をしていて、あの重い箱を持ち上げたときにズリッと骨がすべった……、そう思い当たる瞬間があったのだが、長い時間をかかってズレていたのであれば、やはり職業病ということになる。遅かれ早かれ、症状が出ていたんだと考えると諦観できる。
 まずは服薬で様子見。予想通り、神経障害性疼痛の薬でリリカが追加された。わたしが現役の薬剤師で、薬局で投薬していたときにもよく処方されていた薬だが、あまり効いたという話を聞くことはなかった。前回、処方されたオパルモン(のジェネリック)とメチコバール(ビタミンB12)は、ほとんど効いていない。ほとんどと書いたのは、飲んでいないともっと痺れや痛みがあるかもしれないという恐怖があるわけで、だらだらと服薬を続けてしまう理由でもある。
 実際に痺れているのは、腰ではなく太ももから足の裏までの脚部。いちばんどこが痛いかと問われれば、右の足の裏の土踏まずですと即答できる。そうした痺れがひどくなって、足首が思うように動かなくなったら手術適応だという。腰椎の出っ張った箇所を削る手術なのだが、足首は動くようになっても、痺れは取れないことが多いそうだ。
 慣れるしかないということか。 幸い、激しい運動でなければやった方がいいですと言われた。テニスは腰をひねりますが大丈夫ですか? と確認したら、しばらく考えていたが、まあ問題ないでしょうと言われた。ダメだと言われても続けるつもりだったので、あのしばしの沈黙は無視するとしよう。
 病院の会計で約8000円、外来の調剤薬局で薬代を約5000円とられた。MRI検査を受けたので診察代は仕方がないとして、薬代が高いのは、リリカにはまだジェネリック医薬品が出ていないため。新薬には、開発費を負担した製薬会社の利益を守るために、同効のジェネリック薬品を製造してはいけない特許期間がある。またしても、健康がいちばん安上がりだと痛感。古本で1万円以上の利益を出すのは大変である。
 古本屋は重いものを運ぶのが仕事の一部なので、対策を考えなくてはならない。実際、この一カ月の間にも、本の引き取りやイベント開催で、大量 の本を運搬した。腰をかばっていては時間がいくらあっても足りなくなってしまう。
 そこで「引っ越しベルト」なるものを購入した。背中でクロスになったベルトを肩から下げて、荷物をベルトで支えて全身で持ち上げるようになっている、らしい。華奢な女性二人が、大きなピアノの両端に引っ越しベルトをかけて、軽々と持ち上げている画像はインパクトがあった。
 それから、少し離れた場所にある持ち家の空き家に在庫本を運ぶために、小さなリヤカーを自作しようと思っている。手ごろなサイズのカートがネットでも売っているのだが、手が出る価格ではない。できれば、リサイクルショップで車輪のあるものを手に入れてそれを改造……、こうしたことをあれこれ考えるのも、零細自営業の楽しみの一つなのである。

Copyright(c):Masahiro Akagawa 著作:赤川 仁洋


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*亜木冬彦&赤川仁洋の作品集が文華別館に収録されています。


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