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 今さらだが、広島カープが優勝した。昨年に続いての連続優勝、しかもぶっちぎりの優勝である。シーズン前の評論家諸氏の予想は、圧倒的に巨人有利。財力にあかせてフリーエージェントの選手を買い集めた結果が、このていたらくである。
 そもそも、フリーエージェント、すなわち金の為に移籍した選手で、以前にいた球団のときより成績の上がった選手をわたしは一人しか知らない。あの落合でも、三冠王を二度も取ったロッテ時代の成績を上回ることができなかった。中日、巨人、日ハムと、年齢のことを考えれば当然なのだろうが、移籍するごとに成績を落としている。
 フリーエージェントの選手は、弱点を補う特効薬にはなるのだろうが、所詮、付け焼刃。チーム内で育成すべき若手の出場機会やモチベーションを奪ってしまうので諸刃の剣、いや、今年の巨人の無様な姿を見ていると、マイナスの面しか見えてこない。
 幸か不幸か、カープにはフリーエージェントに参戦する財力がないので、自前の選手を鍛え上げるしかなかった。選手にとってはこのスパルタ式の猛練習は辛いだろうが、それが血となり肉となり、今のカープのタナキクマル(田中、菊池、丸)や、安部の同級生カルテットの活躍につながっている。
 今はタレントとして活動している長嶋一茂の談話を思い出した。一昔前のことなので、知らない人も多いだろうが、長嶋一茂はミスター・ジャイアンツ、いやミスタープロ野球と言われた大スター、長嶋茂雄氏の長男で、1987年のドラフト会議でヤクルトと大洋(現・DeNA)が1位指名で競合、抽選でヤクルトに入団した有望選手だった。
 そのドラフトで、カープも一茂を1位で指名する意思があった、らしい。水面下で打診があったと、一茂本人が告白している。当時はカープの第1期黄金時代で、カープの育成能力を高く評価していた父親のミスターは、息子の将来を考えて、カープ入りを強く勧めていたという。「広島はガラが悪そうなので怖いからイヤ」、一茂の答えである。映画の「仁義なき戦い」が大ヒットしていた。
 もし長嶋一茂のカープ入団が実現していたら、山本浩二の後釜として、ミスター赤ヘルの二代目としてブレーク……、してないだろうなあ。いかに優秀なカープのコーチでも、いかに一茂に素質があったとしても、あのボンボンの甘ちゃんにプロ意識を植え付けるのは無理だったように思える。
 それにしても、評論家を含めたマスコミは現金だ。結果を出したから誉め言葉のバーゲンセール状態だが、優勝する前の広島カープの評判は散々だった。「いちばん優勝から遠ざかっている貧乏球団」、「強化方針が一貫していない」、「チーム力を上げる努力をしていない」等々。プロの世界は勝てば官軍、勝者こそが正しい。巨人が優勝していたら、補強が成功したと賞賛されただろう。
 本音を書けば、巨人にはこのまま金満球団でいてほしい。峠を過ぎたロートル選手を大金で買い集めて、いつまでたっても走れない守れないの大味な野球をやっていただきたい。ソフトバンクのように、資金力のある球団が育成にも力を入れたら、貧乏なローカル球団はとても対抗できないのだから。
 ちなみに、フリーエージェント移籍後に成績を上げた選手は、現在の阪神監督の金本。成績だけではなく、頼れる兄貴分として精神的支柱になった鉄人である。わたしが思い浮かぶ唯一の例外、いやもう一人、ソフトバンクの内川がいるか。例外は二人だけだと訂正しておく。
 話は変わるが、不倫報道が花盛りである。文春砲の連続花火でお祭り騒ぎだが、日本は平和というか平和ボケしているというか、のんきなものだ。天下の文芸春秋が出している週刊誌がゴシップ雑誌に堕してしまった。虚像が売り物の芸能人ならわかるが、政治家までもがターゲットとなると、そこまでして部数を伸ばしたいかと寒々とした気になる。
 政治家に清廉潔白さなど求めていない。腹黒でも好色でもいいので、しっかりと政策で勝負していただきたい。庶民感覚や青臭い倫理観が何も役には立たないことを、民主党政権下でいやというほど思い知らされたではないか。
 女好きで有名だった宰相がいる。初代内閣総理大臣、伊藤博文。以前は千円札に肖像が使われていた偉人である。女性とよく遊ぶことから「箒」(女が掃いて捨てる程いたため)というあだ名がついた。芸者遊びが唯一の趣味だと本人も吹聴していたという。
 素人の女性にも手を出して、マスコミにたたかれたこともある。相手は鹿鳴館の華と呼ばれた戸田極子、岩倉具視の三女で、旧大垣藩主の戸田氏共伯爵夫人だったから大スキャンダルだ。それでも失脚することなく、中国のハルピンで暗殺されるまで政治家人生を全うした。
 時代が違うと言われればそれまでだが、1989年の宇野内閣は、神楽坂の芸妓の暴露記事一発でふっとんだ。リクルート事件に関与していないクリーンな政治家として首相になった男は、希代のスケベ親父としてあっという間に退場した。もっとも、大した影響力がないのでリクルートも献金リストから外していた、というのが真相のようだが。
 いや、ネタがないので、余計なことを書いてしまった。衆議院の解散が近いという。こんな時期にという思いは強いが、首相の専権事項なので仕方がない。解散することの是非も含めて、投票先を考慮するしかない。それにしても、投票したい政党がない……。

Copyright(c):Masahiro Akagawa 著作:赤川 仁洋


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*亜木冬彦&赤川仁洋の作品集が文華別館に収録されています。


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