投稿作品はどれも短編ながら、それぞれよくテーマを発掘し、自分らしさを加える工夫が感じられ、よくまとまっている印象が強かった。反面、投稿慣れしているというか、小作品をまとめる才に長けた器用な人が多いとの実感もある。
 作品をまとめる力量の高さと、作家の用意したレールの上をちゃんと読者に走らせる技巧を持った作品は、「桜鬼」(舘里々子)だった。春曙の桜の下、怪しい一夜を切り取っているのが絵画的。また、男性の浮気心の揺れと言い訳がリアルでおもしろい。反対に、怪しい女性の仕草とか言葉遣いが―たぶん色っぽくしようとしているんだろうか―「今時……」の感想を否めない。わざと古典的にするなら、それらしいムードが欲しいところ。タイトルが「桜鬼」なので、その意味をいきなりセリフの中の小説の話で説明し、それだけ、というのも味気ない。全体のムードとして、怪しくコワイ雰囲気をプラスしたら味が加わった気もする。もっと「鬼」を感じたかった。
 独特の時間と空間に漂う魂というものを感じる作品は「WATER MAGIC for endless tape」(青)。夢とうつつを行き来する不確実さと、不可思議な現実感は、現代を表現しているようでユニーク。ただちょっと説明不足か? と思われる個所が気になる。あいまいな時空やニュアンスにこだわりすぎると、事実関係が理解できなくて、全体的にぼやけるのではないか。だれがどの視点で見ているかを明確にするともっと面白いようにも思う。
 「密封された想い」(蒼井上鷹)は、もの書きがテーマに織り込まれているので、本好き、読書中毒には、妙に心ひかれ、納得してしまう作品だと思う。主人公の気持ちがとても素直でよく伝わり、作品中の謎の小説や祖父母に対する愛情も自然。惜しいのは、謎解きが全部、友人との会話の中で進んでしまったこと。もし映像的に想像すると、主人公と友人がずっと座ったまま向き合って、ときどき回想シーン、という場面になるだろう。もっとアクティブなシーンを入れて、サスペンス・タッチにしたらどうだろうか?
 パソコン、というかネットの世界をのぞく今風のホラーだと感じたのは「1と0」(冬城カナエ)。こんなことは本当にありそうな気がするあたりが共感を呼ぶだろう。逆に、どこかで聞いたようなストーリィのようなかんじもする。なにかひとつ、メインになるような「事件」がほしいところ。ネット・エリアは今後、ホラーの新ジャンルとして、どんどん開拓されていくと思われる。
 「投石PUPPY」(宮沢静香)は登場人物に動きがあり、主人公の心理状態の説明もよくわかるし、焦燥感や圧迫感といった、考えも明確に伝わる。限られたセットの中で展開する物語のリアルさは、筆が冴えている。抜け出したくても抜け出せない自分自身が足枷になる気分や、雰囲気が、圧迫感となって読者を支配する。SEXシーンは文学上、大切な表現ではあるが、扱いは難しいと思う。描き方によって大切なテーマが伝えにくい場合もある。作家の力量が表れるシーンでもあるので、匙かげんがほしいところだ。
 以上、上位入賞作品の感想を述べてみた。個人的にいうと、「手髪(てがみ)」(HIDEN)が気に入っていた。ホラーや怪談が好きなせいもあるだろうが、とくに集中して読んだ。モチーフとして髪の毛が枕から(あるいは部屋のどこかから)出てくるというのは怪談ではよくある。また、無意識のうちに自分が何かを書いてしまうのは、サイコ風、よくマッチしている。いろいろ怪談本を研究していそうだ。また、怪談を描く文章がおざなりでなく、冷静なタッチでリズム良く書いているのがいい。ただ、「怪談落ち」はちょっと残念。「都市伝説風」のラストで、読んでみたいと思った。今後に期待したい。

 こうしてまとめてみると、改めて感想が湧き上がってくる気もする。トライアングル文学賞は、「23」や「枕」など、使うモチーフが決まっているので、その使い方も大いに気になる。同時に、物語の構成上、必要とされ、選んで登場させた作品独自のモチーフにも注目したい。それは物体ではなく、人物、場所なども含まれる。そういうことに着目し使う点は、大変上手い書き手がほとんどだ。ただ、「せっかくここまで考えたのだから、もうひとひねりすれば……」と感じたことも否めない。文章の力量に、構成力をプラスしたら、すごく読み応えが出るだろうと、思えた作品が多かった。もし書き直したら、もう一度読みたいと思ったのだ。
 読んでいて「ああ、あの路線ね」と乗せてしまうテクニックも必要だろうけど、類型的に流れる危険もあると思う。なんだこれ?! と引き込むようなスパイスが効いた作品も読んでみたかった。アマチュアだからこそチャレンジできる、あるいはサイト上の賞だからトライ出来る、そんな冒険を感じさせる作品を楽しみにしている。
 ……こんなことを書いて、自分はどうなんだ?! と言われそうな、勝手なことを書いてしまった。だが、未知の人の作品を、しかも同時にこんなに読めるのは、文句なしに楽しい経験だった。自分も書き手であるのだから、小説を読む楽しみだけでなく、教えられることも、もちろんたくさんあった。作品が「まな板の鯉」なら、感想や批評もまた「まな板の鯉」である。楽しみつつ、勉強しつつ、この文学賞を発展させていきたいと願っている。

● 選考結果 ● 亜木冬彦 ● 高岡水平